第13話 撮影二日目/魔剣鬼と娘とサイン色紙
思いのほか、〈魔剣鬼〉ことガリウスへのインタビューが捗ってしまった……
最強剣士のギャップを上手く盛り込めた回になったと思います(笑)
「……お、思いのよりネモさん――〈リミテッド社畜〉ちゃんの話、重かったね~? 名前は警戒なのに、ギャップすごすぎ……! うん! それじゃ、気を取り直していこ~っ!」
引き攣った笑顔でリリカが声を張る。沈んだ空気をどうにか浮かせようとする、見事な切り替えだ。
その横で、次のインタビュー相手がスタッフに連れられてくる。
「さぁ、お次はこの方! 説明不要の生ける伝説――〈魔剣鬼〉ガリウスさんで~す!」
「…………よろしく、頼む」
次に現れたのはガリウスだった。しかし足腰はガクガクで、覚束ない足取りで椅子に着席する。
だがカメラは、そんな彼の下半身をきっちりフレームアウト。伝説に泥を塗らぬ撮影班、流石の判断である。
「ええっと……質問、いいですか?」
「……何の話だ」
「ほら、ずっと我慢してる〝例の発作〟……!」
早速、リリカが笑顔で切り込む。あのガリウスのトラウマに、ノーブレーキで。
場の空気が凍り、周囲のスタッフは一斉に固まる。
しかしガリウスは目を伏せたまま、低く答えた。
「…………そう簡単には治らぬ」
「そ、そんな長い付き合いなんですか~……!? それは辛いっ!」
うんうん、とリリカが頷くが、その言葉はどこか空回りしているにも見える。共感というより、火に油を注いでいるような感じだ。
「その溜まり溜まったストレス、ボクにぶつけてみませんかっ? ついでに、その経緯もぜひ――」」
言いかけた瞬間――
漆黒の閃光が空気を裂いた。
「……へ?」
ガリウスの以外の全員が瞠目する。
慌てる彼等の視線は今まさに、リリカの眼前で止まった黒剣に寄せられていた。
「これ以上の詮索は無粋というものだ。他人に語れぬ過去は、誰にでもある」
凄みのこもった声に、リリカの表情がピクリと揺れる。
「で、ですよね! はい! ごめんなさーいっ! ――ゲッツォ監督、今のカットでお願いしまーす!」
ぺこぺこと頭を下げながら、リリカは紙を切るジェスチャーを送る。ちゃっかりスルーする術にも長けたアイドル兼リポーターである。
「――改めまして、魔界の誇る最強剣士・ガリウスさんに、密着インタビュー開始!」
数分のクールタイムを挟んでテイクツー。
ようやく本題に戻ったものの、ガリウスはまだ顔色が悪い。果たして、終了まで意識は持つのか。
「ガリウスさんが魔王クロエ様に仕えていたのは有名ですけど、どうしてまたかつての主に仕えようと……?」
「かつて、などという言い回しは訂正させてもらおう。我が剣と忠誠は、常にクロエ様のものだ」
そう言って、ガリウスが黒剣を掲げる。
「五百年変わらぬ忠義……! まさに騎士道! そんなにも尽くされるクロエ様、羨ましいっ! ……でも、一つ気になることが」
不意にリリカが控えめに挙手する。
「…………なんだ?」
「ご家族は、納得されてるんでしょうか?」
やや申し訳なさそうに、リリカが踏み込む。
ガリウスは、ふっと目を細めて笑った。
「妻と娘は、むしろ『助けに行け』と我を叱咤したな」
「な、なんて強い……! あの〈魔剣鬼〉を叱るなんて……!」
リリカの返しに、ガリウスは照れたように腕を組む。
「妻は気が強くてな。娘も最強、あやつに似てきた」
「まさに〝女は強し〟って感じですね!」
「……? それはオマエもであろう?」
「へ? あっ……!」
唐突な一言に、リリカが一瞬硬直。次の瞬間には、ぱんと手を叩いた。
「家庭あるあるだよっ! あまり深く考えないで……!」
そうか、とガリウスが納得したように頷き、リリカも軽く息を吐く。
「最後に……ハルトくんについては、どう思ってますか? 魔王様からは一応、弟子って聞いてますけど」
「ハルト……あれは駄目だ。貧弱すぎる……!!」
ガリウスがいきなり拳でテーブルを叩き、全員が身を竦める。
「人間にしてはまぁ骨はあるが常に逃げ腰で、すぐ近道を探そうとする! 精神力が足らん! まったく……! クロエ様に期待されているのなら、もっと応えようとせぬかっ!!」
「が、ガリウスさん! 落ち着いてっ!? ストップ! ストーーップ!?」
慌てふためくリリカ。しかしガリウスは、その手を下ろす。
「…………しかし、奴の本領はそこではない」
「へ?」
「迷宮の知識と経験、そして――生への執着。あれはあれで、戦い続ける理由を持っている。……それだけは、師として認めてやろう」
――と、静かに締めくくった。
空気が落ち着き、再びインタビューの空気が戻ってくる。
「な、なるほど。師として厳しく接してるけど、それはそれとして、やはり弟子は可愛いと……! 愛のある師匠のコメント、ありがとうございました~!」
そうして、インタビューは終了。
僅かに話がねじ曲がって伝わってしまったのか、ガリウスが渋い顔をしていたがーー
「…………済まぬが、この色紙にサインを頼めぬだろうか? 娘が大ファンでな」
否、違った。
ただ恥ずかしかっただけのようだ。
そのリクエストに、リリカは満面の笑みを浮かべる。
「もちろん! 娘さんのお名前は? あぁ、ニックネームかな?」
ガリウスは物凄く言いにくそうに、
「……………………ニックネームで、その――〈ギャラクティカ♡忠剣士〉、で頼む」
「…………あぁ! 〈ギャラクティカ♡忠剣士〉ちゃん! 〈リミテッド社畜〉ちゃんに負けず劣らずのあの子ですね!」
リリカに娘のニックネームを復唱されると、ガリウスの顔は〝虚無〟に染まってしまったのだった。
少し遅れてしまい申し訳ありません。
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以前言っていた短編の方ですが、あともう少し掛かるかと。一万字を超えますが、心に響く内容になってきていると思いますので、もう少々お待ちを。
それとは関係ありませんが、次の投稿は【5/31】の夕方以降とします。
理由? フッ、私用です……




