第12話 撮影二日目/アイドルの密着インタビュー
たとえ悪天候だろうと、山中に埋もれた迷宮に何ら支障はない。ましてや、内部で行われる収録が妨げられる理由などあろう筈がなく――
撮影二日目。予定通り、共有スペースにてインタビューは始まった。
「さぁっ、今日は迷宮の皆に密着インタビュ〜! 全員まるっと丸裸にしちゃうから、覚悟しておいてねっ」
悪戯っぽく指をカメラに突き付けるのは、超新星アイドル・リリカだ。
そのリリカと〝話す〟だけでも、本来なら至難の業だ。関連グッズ三点の購入で一枚もらえる抽選券。これに当選した者だけが、ようやく〝お話会〟に参加できるが――その当選倍率は、実に二十六倍。選ばれし者にしか拝めない機会である。
そんなリリカがインタビューを行うのだ。これが撮影とはいえ、ファン垂涎の奇跡の時間であることに違いない。
「それじゃあ、栄えあるトップバッターはこの方々! 防衛要員・通称〈カツアゲ隊〉の皆さんでーす!」
「「「「よよっよっよっ、よろしくお願いしまっしゅっ!!」」」」
長テーブルの長辺側に座るのは、四人のコボルドたち。インタビュアーであるリリカは短辺の上座。カメラはその様子を正面から捉えている。
ちなみに、この場は〝出演者以外同席NG〟だ。
リリカの芸能人オーラと緊張感が混ざる空間で、インタビューは開始された。
「じゃあ、さっそく質問いっくよ~。迷宮での仕事に、やりがいはある?」
「もももももちろんでさぁっ! クロエ様やハルト様のおかげで、楽しくやらせてもらっていやすっ」
隻眼のコボルドが隊を代表して勢いよく答え、他の三人――インテリ・コボルド、意識高い系のコボルド、バーサク・コボルド達もコクコクと頷く。
〈カツアゲ隊〉の面々もネモ程ではないが、リリカのファンだ。緊張こそすれ、まともに喋れないほど気は動転していない。
「じゃあ、そのハルトくんって、キミ達から見てどんな人?」
「とても仲間想いの人でやす!」
「百パーセント迷宮好きの人間ですね。断言できます!」
「ヒー、ビッグマン!」
「良い人、です。はい」
「「「お前普通に喋れたのかよッ!?」」」
普段は語彙力が死んでいる筈のバーサク・コボルドがしれっと発言したことで、他の三人が総ツッコミを入れる。
いつの間にか自身のキャラを放棄してしまうくらいには、彼らの緊張もほぐれていたようで。
リリカのアイドルパワーが垣間見える一幕であった。
◆◇◆
「はいはーい! お次は~……〈リミテッド社畜〉ちゃん! ――じゃなかった! ネモさん、どうぞ!」
「……ぽわぽわぽわぁ~…………」
二人目は〈ボロモウケ商会〉から出向中のネモ。リリカのガチファンにして、迷宮で誰よりもリリカを崇拝するファンの鑑……なのだが。
席に着いたネモは、完全に魂が抜けたような目をしていた。
「あれれ、昨日のまんまだ。――起きないと、ボクに唇、奪われちゃうぞっ♡」
「――むしろお願いしますッッ!!!!」
「あ、起きた!」
瞬時に覚醒。ギンギンに血走った目で前のめりとなり、ネモが荒い息をハァハァと漏らす。
「生まれてから数百年以上も温め続けてきたあたしのファーストキスを是非っ!」
「うわぁ、責任重大だなぁ~」
リリカは苦笑しながら、手を前に掲げる。
「でもごめんね? ボクの大切なファンから、そんな大事なものは貰えないよ」
「ソンナァァァァァアアアアア!!!?」
チロリと舌を出して謝るリリカに、ネモはテーブルに崩れ落ちた。場に妙な哀愁が漂う。
そんな様子にリリカも小さく咳払いし、空気を切り替える。
「それじゃあ、気を取り直して――ネモさんは、〈ボロモウケ商会〉の人なんだよね?」
「…………はい」
「自分からエンタメ迷宮に出向してきたって聞いたけど、どうして?」
「…………クロエの為です」
「魔王様の?」
「五百年以上……ずっとひとりぼっちにしてしまった。親友として、助けない訳にはいかないんです」
短く、けれど深く。
その一言に込められた想いを受け止めたリリカは、一瞬だけ言葉を失い、目を伏せた。
やがて、どこか悔しげな、それでいて寂しさの混ざった笑みを浮かべる。
「そっか。ボクも陰ながら応援するよ」
気持ちを切り替えるようにリリカは手を叩くと、次の質問に進む。
「じゃあ次にいこっか。ハルトくんのことはどう思ってる?」
「馬鹿で、迷宮好きで、デリカシーがなくて……」
「うわ、辛辣~」
「でもその分、裏表がなくて。迷宮のことしか頭にないから、かえって信頼できる……かな」
「あれ? なんだか高評価?」
ネモの発言は客観的で辛口だったが、そこには確かに信頼が滲んでいた。数百年を生きる魔族の彼女にとって、ハルトとの時間はごくわずかだというのにだ。
「それじゃ、最後の質問。迷宮の中に、人間はハルトくんだけって状況については?」
「あたしは気にしてません。あいつもきっと気にしてない。ただ――」
「ただ?」
リリカが眉をひそめる。
ネモは静かに立ち上がり、共有スペースの出口へと視線を向けた。
「今の環境は、クロエがかつて掲げた理想の〝かたち〟です。それだけでも、この迷宮を運営する価値があった。あたしは思います」
そう言って、ネモは一礼し、その場を後にした。
撮影班の操るカメラだけが、その背中を静かに追っていった――
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次はガリウスやクロエ、ハルトのインタビューですが、少しハプニングが起きますハイ!
次の投稿は、少し飛んで【5/23】の予定です。
▶︎追記。自分への課題として書く短編の内容が、思った以上に難く、執筆が難航しているので、【5/27】での変更をよろしくお願いします。出来上がったら投稿いたします!
ちなみに、内容は異世界のヒューマン?ドラマです(笑)




