第9話 撮影一日目③/リリカの職場体験コーナー
次話の内容も含めて投稿するつもりが、思った以上に文字数が伸びてしまったので、分割しました……
撮影の合間に休憩を挟みながら、取材は次の段階へ。
「うぅ〜っ、動きが結構速いよぉっ……ボクに突破できるかな……?」
カメラは、戦闘エリア内を高速回転する十字型の丸太と、それを前に険しい表情をしていたリリカを側面から映していた。
それこそが、『密着、カレイドスコープ』で恒例となっているコーナー――リリカの職場体験だ。
「これ、大怪我しないよね……? 当たったら骨折したりしない?」
うるうるとさせた瞳を、カメラがある方向に向けるリリカ。
その先にはクロエにガリウス、ゲッツォら撮影陣と、『渦巻き丸太旋風ゥ!』を採用したハルトの姿。
その中でもただ一人、ハルトだけが親指をグッと立てている。
「メンテナンス用の調整モードにしてるし、丸太をクッション素材に替えて速度もだいぶ落としてるから大丈夫な筈だー! …………多分」
「多分!? なんで一番重要なとこが曖昧なのぉー!?」
「ほら、何事にも例外ってものがあるし」
危険性の有無については、ハルトやマネージャーのルベルカが、その身を以って〝危険は無い〟と証明している。
それでも不安そうにしていたリリカだったが、その顔色が途端に明るくなった。
「――リリカたんっ!!」
画面の外から届いた力強い声。
カメラを含めたその場の全員が、そちらを向く。
ザザーッ! と横から滑り込んできたのは、|ペンライトを両手にカラフルな法被を纏った丸眼鏡の女――もとい、リリカの熱烈ファンである〈リミテッド社畜〉・ネモだった。
その眼には、これから戦場に赴く戦士が如く、堅い決意が宿っていた。
「リリカたんには、あたしがついてるぅーーっっ!!」
「〈リミテッド社畜〉ちゃん……」
「ほわぁぁっ! ほわっ! ほわっ! ほわっ! ほわっ!!」
そう宣言しながら、巧みな棒捌きでペンライトを振り回し踊り始めるネモ。
恥も外聞もかなぐり捨てた姿は、流れる汗も相まって非常に輝いていた。
「あ、あなた……その格好は、なに……?」
「リリカたーん! 頑張れぇぇぇっ!!」
普段は黒スーツで格好良さすら放つネモだが、リリカの前では例外らしい――そんな姿に、クロエが顔を引き攣らせた。
そんな中、カメラが目を丸くしていたリリカを映し出す。
「――ファンの前で、カッコ悪いとこは見せられないや」
そして、その口元がニヤリと形を変え、僅かに頬に赤みが差した。
「よぉ~し! このボクが、ただのアイドルじゃないってとこを見せてあげるっ!」
ビシッとカメラに指を突きつけるリリカ。
可愛らしさの中に見える勇ましさに、撮影陣を含めた全員が歓声を上げた。
回転する丸太をじっと見つめるリリカを、罠の反対・右後方から別カメラが映す。
次第に、丸太が空を薙ぐ音だけが聞えるようになっていた。
そして――
「行くよっ」
「えっ!?」
腰を屈め、リリカが勇猛に走り出した。
その動きが予想外だったのか、罠を採用したハルトが驚愕。その様を、近くにいたカメラが捉える一方で、リリカの体は丸太へと迫っていた。
「ふっ……!」
その中心に向かって、リリカが狙いすまされたタイミングでスライディングを敢行。罠の根本に辿り着くと、すかさず上下に動く丸太に内側からしがみつく。
「「おぉ~っ!!」」
再び歓声が上がる。
リリカは回転する丸太に身を委ねながら、次のエリアへと続く扉を見据える。
鼓膜に響く鈍い風切り音。額に滲み出す汗。
心音の高鳴りを感じつつも、回る世界に集中し――
「それっ!!」
丸太が上を向いた瞬間を見計らって丸太を蹴り、数瞬後に手を離した。
宙に放り出されたリリカは、そのまま放物線を描きながら体を回転させ、鮮やかに扉の前に着地した。
「――っと! イェーイ!」
「うっそぉぉっ!!?」
カメラに向かって笑顔でVサインを送るリリカに、ハルトがあんぐりと口を開く。
「おおおおおぉぉぉおおおおっっ!! 流石リリカたーーんっ!!」
感動したネモが号泣しながらペンライトを振りまくる中、ハルトにクロエ、カメラがリリカに近寄った。
「どぉー? ボクって、スゴイでしょ?」
「ええ。見事な攻略法だったわ。ね、ハルト?」
「くぬぅぁぁああっ……! 普段は高速で回転させてるから、その発想には思い至らなかったぁっっ!」
クロエがリリカを褒める傍らで、失態とばかりに頭を抱えるハルト。
「あれ? ここに来る冒険者はこのやり方で攻略したことないの?」
「ほとんどは、縄か何かで丸太を止めるか壊すんだよ! 小柄なリリカちゃんだからこそ出来た芸当だっ……ほんと、御見逸れしました!」
「いやいや、丸太の動きも遅かったし、今回は偶然……うぅん、必然なのかな?」
「?」
謙遜したリリカがある方向に視線をやった。
そこには、ずっと応援していたネモの姿がある。
「ファンの声援が……ボクの心を満たして、力をくれたんだよ」
「……?」
その含みのある言葉に、ハルトが眉をひそめて首を傾げるが、直後にその肩が優しく叩かれた。
「さ、次はハルトくんの番だよ」
「うん…………うんんぅぅっ!!?」
予想外の言葉に生返事した後、ハルトは目を見開いた。
「え、あれ、こんなの打ち合わせには――」
「人間のハルトくんの挑戦も撮らないと、難易度が視聴者に伝わらないでしょ? ねっ、ゲッツォ監督」
「確かに……比較がないのも面白くない。ではハルトさん、ご準備を。元の難易度でお願いします」
「あれ乗り気?」
「迷宮運営に携わる者として、実力を見せつけてきなさい。ハルト」
「クロエまでっ!!?」
撮影予定にない挑戦に慌てふためくハルト。
しかし、監督であるゲッツォや主のクロエがゴーサインを出した以上、挑戦しないわけにもいかない。
「あぁっ、分かったよっ! やりますよぉ!」
そして、『渦巻き丸太旋風ゥ!』に臨んだハルトであったが――
「ぶべらっ!!!?」
「あ、吹っ飛んだ」
「ハルトってば…………」
なんの準備もしていない上に、焦りと緊張の所為もあってか、見事丸太に撥ねられ、ボロ雑巾のように崩れ落ちたのだった。
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今回から、投稿は〝二日おき〟にさせて頂きます。執筆速度が遅いのもありますが、それ以上に時間がないのです(泣)
なので、次話は【5/9】の夕方以降でお願いいたします。
⇒追記。次話の10話はまだ書きあがっていないので、明日5/10に延期いたします。読者の皆様、申し訳ありません。




