第7話 『密着、カレイドスコープ』撮影一日目①
会話中心。カメラ目線で進むので、その光景を想像しながら楽しんでくださいね~!
「――さぁ、今週もやってきたよぉ! 密着、カレイドスコープーっ!」
元気いっぱいのハイトーンが、共有スペースに高らかに響く。直後、軽快な足音と共に、アイドル衣装のリリカが画面の向こうに飛び込んできた。
マイク片手に、満面の笑みでカメラへ手を振る。
「今回の密着対象は――今、人間界で話題沸騰中の〝エンタメ迷宮〟! なんと、かの封印された魔王様が関係してるってウワサもあるとか!? これは気になるね~!」
軽くウインクを決めながら、リリカが勢いよく執務室の扉を開ける。その動きに合わせ、カメラは内側にぐっと寄る。
画面の端には、スタッフの魔族が掲げるカンペがチラリ。『もっとテンション上げて!』の文字に、リリカは笑顔を崩さず視線で応じる。
「というわけで、超新星アイドルのこのボクが、迷宮のナゾにとことん迫っちゃいまーす!」
そのまま自然にカメラを手招きしながら、まるで本職のリポーターのような流れで奥の執務机へと進む。
「ここが運営の中枢みたいだね! ……おやおやぁ? なんだかスゴく貫禄ある方をはっけ~ん!」
奥の執務机で背を見せていたのは、凛とした気配を纏う美しい少女。二本の角を持つ彼女に、リリカは芝居がかった声で呼び掛けた。
「こんにちは~! 『密着、カレイドスコープ』でーす! いきなりだけど、この迷宮の実態――全部、曝け出してもらいま~す!」
少女は、優雅な所作で音もなくカメラの方を向いた。
「あら、ずいぶん賑やかなお客さんね。一体、どこまで曝け出せば良いのかしら?」
「――全部です! 視聴者のためにも、お答えしてもらいますよっ」
「ふふ、そう言われたら断るに断れないわね。わかったわ」
「ありがとうございま~す!」
涼やかな返答を聞きながら、カメラが少女の顔にゆっくりと寄っていく。その目線の先で、リリカがふふんと笑いながら、もう一歩踏み込む。
――また一枚、カンペが揺れる。『そろそろ名乗らせて!』
「さてさて、ボクはもう知ってるけど、視聴者のみんなはこの人が誰なのか気になってるよね~? というわけで、お名前を、どぞーっ!」
その問いに、少女は小さく咳払いしつつ、堂々と名乗る。
「私は五百年前に封印された魔王にして、この迷宮の主――クロエよ」
その瞬間、カメラがわずかにズーム。クロエの瞳がキラリと光を反射する。
「えぇぇええっ!? まさか、伝説の魔王様とご対面だなんて……! ボク、ちょっと柄にもなく緊張してきたかも……」
「気にしないで。私だって、初めての撮影で緊張しているもの。ね? 超新星アイドルのリリカさん」
「わっ、魔王様に知っててもらえるなんて光栄だな~! ……って、喜んでる場合じゃないないっ」
くるりと表情を引き締めたリリカが、カメラ越しに真面目な顔を向ける。
「たしか魔王様って封印されてたはずでは? こうして元気に喋ってるってことは――まさか、もう復活済みだったりっ?」
「いいえ。これは幻体。魔力で作った仮初の身体よ。封印が劣化してきたから、こうして一時的に姿を見せられるの」
「なるほど~……ってことは、この迷宮には何か目的があるってこと、かな?」
「鋭いわね。その答えは――この子に任せた方がいいわね。少し待っていて」
にやりと笑ったクロエが、唐突に声を張り上げる。
「ハルトー! 今すぐ来ないと、給金減らすわよーっ!」
「や、やめてええぇえええっ!?」
バンッ! と派手な音を立てて、扉が勢いよく開く。
画面が素早く広がり、飛び込んできたのは人間の青年。焦りまくった顔でクロエの元へ駆け寄り、そのまま滑るように膝をつき、土下座!
「クロエ! いや、クロエ様ぁ! なにとぞっ! なにとぞ、給金を減らすのだけはお許しをぉぉぉぉっ!!」
「この残念そうなのが、現場責任者で人間のハルトよ。この子がいなきゃ、話は始まらないわ」
「えぇ~っ!? 人間だったの!?」
リリカが思いっきり仰け反って驚いた後、ぱっと笑顔に戻って挨拶する。
「ボク、リリカ。よろしくね~!」
「よっ、よろしく……超エリート冒険者、名乗ってます……」
「へぇ~、なんだか親近感湧いちゃうな~」
リリカの眩い笑顔に、体を起こしたハルトは恐縮気味に頭を下げた。
「さてさて、そんなハルトくんに、ズバリ聞いちゃいます! この〝エンタメ迷宮〟って、普通の迷宮と何が違うのかなっ?」
「――よくぞ聞いてくれた!」
その瞬間、ハルトの目がキリリと細まり、いつもの情けなさはどこへやら、堂々と胸を張る。
「ここは〝冒険者と迷宮創設者の知略が織り成すエンターテイメント〟の場なんだ。殺しは禁止。戦闘や罠で驚かせ、冒険者に楽しんでもらう――それが、この迷宮の理念なんだ」
「おぉ~! まるで娯楽施設みたいだね!」
「でも、本当の目的は別にあるんだ」
「おおっと!? その目的とは――!」
ピリッと緊張感を帯びたカメラが、リリカの顔に寄る。そこから滑らかに、ハルトの真剣な表情に切り替わった。
「実はこの迷宮、クロエの復活に深く関わってるんだ」
「うそぉっ!!? 今日イチの衝撃だよ~っ!」
カメラが素早い動きでクロエを捉える。
「私の封印を解くには、感情エネルギーを魔力に変換した〝エモトロン〟が必要なの。それを集めるために、私達は日々この迷宮を運営しているのよ」
「復活には、まだまだ時間がかかるけどな」
「でも私は、ハルトなら、いつの日か私を復活させてくれると信じてるわ」
「やめてくれよ、その過度な期待……ま、俺が生きてる間にはなんとかするけどさ」
カメラが、見つめ合う二人のアップを捉える。
暫し、静かな空気が流れーー
「ううっ……魔王様の為に頑張る、ハルトくんの健気さ……ボク、感動しちゃったよぉ!」
画面下から、にゅっとリリカが飛び出す。
目尻を拭いながらも、カメラへと指を突きつけた。
「でもまだ甘いっ! 曝け出し方が全然足りな~いっ! というわけで、次は運営の実態にもっとも~っと迫っていくよぉ! 密着、カレイドスコープゥゥッ!」
「――はい、カーット!」
甲高く響くカチンコの音。監督のゲッツォが合図を送る。
現場の空気が少しずつ弛緩していく。マイクを下ろしたリリカは、リラックスした笑顔でクロエとハルトに話し掛けに行った。
「うんうんっ、二人とも初めてとは思えないほど堂々としてたよ~! スゴかったっ」
「あ、あれでも結構ドキドキしてたのよ? 顔に出さないよう、必死だったんだから……」
「お、俺もっ……失敗したらどうしよう、噛んで恥かいたらどうしようって心配だった……!!」
「いや、人前で土下座した時点で立派な恥だし、今更じゃない?」
「それと他人に見られるのとじゃあ、恥じらいの次元が違うんだよぉ!!」
そんな二人のやり取りを真顔で見守っていたリリカは、ふっと優しい笑顔を花咲かせる。
「…………ま、ともかくお疲れ様! さ、次のカットも頑張ろうーっ」
クロエとハルトが、それぞれ「えぇ」「おぉ……」と覇気のない返事を返しつつ、次のカットの準備に移っていった――
撮影一日目①からわかるように、これからハルト達が撮影に四苦八苦?奮闘?する話が続きます~。クスッと笑えるシーン要所要所に挟んでいくので、お楽しみに~!
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今日は、投稿が遅れてしまい申し訳ありませんっ……!!
そして、重ね重ね申し訳ないのですが、私情により、次の投稿は【5/2】夕方以降でお願いいたします~!!!!
▶︎追記。撮影パートの執筆が思った以上難航していて、今日中に上げられそうになく……申し訳ありませんが、読者の皆様、もう一日だけください(泣)
投稿は【5/3】で。




