第6話 取材の打ち合わせ
日を跨いでしまい、申し訳ありませんぅぅぅぅっ!!!!
リリカ達の荷物を客間に置き、迷宮内を一通り案内して共有スペースに戻ってきたハルト達。
本来なら、すぐにでも打ち合わせを始めたいところだが、少々時間を置くことになった。
「ネモはともかくとして……まさかガリウスまでダウンするなんてな」
「め、面目ない……推しを前にしたら、つい、我を忘れちまって……っ」
「迷惑を掛けて済まぬな……ハルト」
長椅子の上でそれぞれ横たわるネモとガリウス。体調不良となった二人の為に、リリカと撮影班の面々が気を遣ってくれたのだ。彼等には今、少し離れたテーブルで寛いでもらっている。
「ハルト、二人の調子はどうかしら?」
「おう、二人とも平気そうだ」
ネモとガリウスの様子を見に、クロエがやってくる。ハルトがそう伝えると、クロエはほっとしたように胸を撫で下ろす。
「……良かった。ネモはともかく、ガリウスは特に心配だったの。かなり高齢だし、何か特殊な、重い病だったらどうしようって」
「さっきからあたしの扱い酷くない?」
「自業自得だろ……クロエは、何も知らなかったのか? ガリウスが……その、女の子が苦手ってことは」
「ええ、初耳だわ」
「トラウマになったのは、クロエ様が封印された後のことですゆえ……」
主のクロエですら知らなかったガリウスの意外な弱点。
魔界最強の片鱗を、修行でほんの少しでも理解していたからこそ、ハルトの驚きも大きかった。
「何がきっかけなんだ?」
ハルトの問いに、ガリウスはどこか遠い目をしながら、ゆっくりと語り出した。
「――あれは今から百年ほど前のことだ。街で暴漢に絡まれていた小娘達を親切心で助けてな。しかし実際には感謝されるどころか、『余計なお世話』だの、『オッサンキモい』だの、『イマドキ剣士なんて流行んない』だのと言われたのだ」
「えぇぇ……」
「以来我の体は、異性の幼子を見ただけで震えるようになっていた……」
(メンタルよっわ!? ……いやでも、俺も実際に同じこと言われたら……)
トラウマの原因は、なんてことのない人助けによるものだった。その散々な言われように、ハルトは同じ男として心底同情した。
「当時、娘には拒否反応が出なかったのが、せめてもの救いだった」
「……そんな目に遭っていただなんて。まったく、許せないわね」
ガリウスの境遇に腹を立てるクロエ。
その光景を見た瞬間――
「…………ん? 待てよ」
ハルトの脳内で、ある可能性が浮かび上がった。
「クロエやネモが平気ってことは――つ、つまりっ! 二人は年――」
「言わせねぇよ!」
「言わせないわよ!」
「――まンゴォェッ!!?」
恒例のノンデリカシー発言を、容赦のない腹部へのダブルブローで未然に防ぐネモとクロエ。
そして二人は、すぐさま緊迫感あふれる顔でガリウスへと詰め寄った。
「ガリウス様! あたしはまだピチピチの美少女だよな! なっ!?」
「わ、私もっ! そこまで歳は取ってないわよね!? 封印期間は加齢に入らない! でしょう!?」
「…………う、うむ。二人は立派な淑女だ。どうか安心して欲しい」
女の鬼気迫る表情に、ガリウスは事実がどうであれ頷かざるを得ないのだった。
「ハルトくん……大丈夫?」
その光景を見ていたリリカがひょこっと顔を出し、横たわるハルトの傍でしゃがみ込んで心配そうに見下ろしてくる。
「り、リリカちゃんか……パンツ見えそうだから、その体勢はやめような?」
「冗談を言えるなら大丈夫だね。それそろ打ち合わせ、始めよっか!」
セクハラすれすれの発言にリリカが恥じらう様子はなく、そのままプロデューサーのもとへ駆けて行く。
(……プロの対応ってやつか? アイドルって、凄いな……)
その距離感と無防備な振る舞いに、ハルトは一片の疑問も抱かないのだった。
◆◇◆
「――それでは、『密着、カレイドスコープ』の打ち合わせを始めさせていただきます」
ようやく始まる取材の打ち合わせ。初めての経験にハルトが緊張する中、プロデューサーのゲッツォが話を進行させていく。
「本企画は、取材先の表と裏側――このエンタメ迷宮を、余すところなく視聴者に曝け出すことが目的です。実際に働く皆様にリポーターのリリカちゃんが迫り、質問や体験をしてもらう流れとなっています」
「ありのままの姿を晒す、ということね」
「はい、それがこの番組のキモですから。三日間で出来うる限り撮影して、後で実際に映す素材を抜粋することになるかと」
主に話し合っているのは、ゲッツォとクロエだ。互いに対面する形で意見を述べ合っている。
「それで、撮影日程の内訳ですが、初日はクロエ様達の紹介と迷宮の運営業務、二日目はインタビュー、最終日は実際の防衛戦を撮らせていただければと思っています。予定に関しては以上となりますが、何か質問はございますか?」
ゲッツォが辺りを見渡す中、ハルトはおずおずと挙手する。
「なんでしょうか? ハルトさん」
「!」
体ごと、こちらを見るゲッツォ。
その真摯な眼差しに、ハルトはギョッとした。自分たちよりも遥かに劣る人間に、そこまで遜れるものなのか、と。
(……大人の対応ってやつなのか?)
迷宮の主であるクロエならいざしらず、人間の――それも何百歳も差のある若造にみせる腰の低さではなかった。
「ハルトさん?」
「あっ、は、はい! えっと、防衛戦を撮影?するのは良いんだけど……リリカちゃん、と、撮影班の人は、実際に現場に入るのかな、と。ほらっ、危険だしさ?」
「なるほど。もっともご意見ですね。ですが、心配には及びません」
ハルトのたどたどしい質問に対し、ゲッツォは目玉の形状をした握り拳ほどの魔導具を取り出す。
「目玉の……魔道具?」
「これは小型の〝魔眼カメラ〟と言いまして。遠隔から魔力で操作できるので、撮影者を危険に晒すことはありません。また、透明化の術式で冒険者の方々から発見されるリスクもなく、空中のどの角度からも撮影可能なので、ダイナミックな映像が撮れること請け合いですよ?」
(……これが魔界の技術か。慣れてきたと思ってたけど、やっぱ人間より進歩してるなぁ)
実際にゲッツォが操作して魔眼カメラが動き回る。
やはり、人間界と魔界の技術力の差は埋めがたいものがある。
「それと、リリカちゃんには共有スペースから、クロエ様と一緒に実況してもらおうかと」
「私も?」
「主に解説役ですね。やはり駄目でしょうか?」
「いいえ。喜んで務めさせてもらうわ」
「ありがとうございます! 他に質問がなければ、撮影を始めようと思うのですが、いかがでしょう?」
ゲッツォが再び確認を取ると、返ってきたのは無言の肯定。
「はい……では皆さん、本日はよろしくお願いいたします!」
そうして、『密着、カレイドスコープ』一日目の撮影が始まるのであった。
話はあまり進みませんでしたが、クスッと笑える部分は提供できたかと!
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
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次話の撮影パートは力を入れたいところなので、少し日を空けて4/28の夕方以降でお願いします!!
→自分への課題で書いてた短編のこともあり、少し遅れ気味です。投稿日変更は日を跨ぐ前に伝えれられればと!
→既に告知済みですが、29に延期です。




