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魔王様リバイブ! ~美少女魔王と始めるエンタメ迷宮運営ライフ~  作者: お芋ぷりん
第2章 魔王が誇る最強の忠臣

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第16話 一刀にて挫く戦意

結局、日を跨いでしまった。申し訳ない。

だが、16話の内容に後悔はない。存分に楽しまれよ。

 




 冒険者の一団が出先で他のグループと鉢合わせするのは、よくあることだ。


 それが、命を賭けることなく攻略を楽しめ、誰にでも財宝を得るチャンスがあるエンタメ迷宮なら尚更である。


「兄弟ぃぃぃぃぃぃっ!!」

「おい、そこのあんた! 手を貸してくれっ!!」

「…………」


 気付けば見知らぬエリアにいた斥候の女――ユリアナは、助けを求める冒険者(同業者)の声に応じようとはしなかった。


 否、()()()()()()()()()()()()


(いま、何が、起こったノ……?)


 なにも、罠に嵌った影響で意識が朦朧としていた訳ではない。


 ただ単純に、自分の目で見た光景が驚愕のあまり信じられなかっただけで――


「チッ! ()の技を見て放心している……!」

「兄者っ、あんな女ほっときましょう! 今は早く撤退を……!」


 ユリアナに助けを求めた、武闘家の二人が巨漢の仲間を抱えて逃げ出そうとする。


「――逃げ出すのか? 〝無敵三兄弟〟が聞いて呆れる」

「……なんだと?」


 そんな彼等の背中に、ふと挑発めいた言葉が投げ掛けられた。


 誇りを刺激された二人がその場で振り返る。


「余程自分達の力に自信がある様子だったが……これでは、拍子抜けもいいところだ」


 落胆した様子で肩を竦めたのは、紫髪の男剣士であった。


「腕試しに来たのであれば、せめて敗北を認めてから去れ。オマエ達に誇りがあるならばな」

「くっ……い、言いやがったな……!!」

「あ、兄者!?」


 挑発に乗せられた武闘家の小男が巨漢の仲間を肩から下ろし、その場で独特な構えを取る。


「そこまで言うなら思い知らせてやるよ! おれ達兄弟が考案した無敵神拳の凄さをっ……!!」

「ほう。ならば、その看板……即刻下ろすべきだな。もはや、その名は無意味だ」

「――っ、許さねぇ!!」


 自分達の武術流派を遠回しに貶され、紫髪の男に対する小男の怒りは頂点に達した。


「うぉおおおおおおおッ――ハィハィハィハィハィハィィッーー!!!!」


 紫髪の男の懐に一気に肉薄すると、凄まじい拳の連打を見舞う。


 その突きの鋭さたるや、あたかも細剣(レイピア)の刺突を思わせる程だ。


「…………ふむ、やはり()()()か」

「なに!!?」


 ーーだが、紫髪の男の方が一枚も二枚も更に上手(うわて)だった。


 至近距離で放たれる拳の弾幕を、必要最低限の動きだけで軽々と躱していく。それも、その場から一歩も動かずにだ。


「もう良い。終幕といこう」


 嘆息した紫髪の男は流れるような足取りで小男の背後へ回ると、黒剣を上段に構えた。


「しまっ――」


 そのあまりに滑らかな動きに、小男の反応が完全に出遅れてしまう。


(っ!? 出す気だワっ……あの一撃を……!!!!)


 紫髪の男が放つ異様な圧を感じ取ったユリアナが、先程見た光景を脳裏にフラッシュバックさせた直後――


「ハァッッ!!!!」


 ――気合一閃。


 紫髪の男は、小男の上体を目にも止まらぬ速さで袈裟懸けに斬り裂いた。


「ぅぅっ、ぐあっ、ぁ――」


 不思議なことに、その一撃は物理的な傷を残さなかった。さりとて、痛みが全くなかった訳もではなく……


 その一撃で以って、小男の体はまるで糸が切れた人形のように力なく崩れ落ちた。


「ひ、ひぃぃっ!? 人殺しィィィィ!!?」


 その様を目の当たりにして、ただ一人残った細身の男が悲鳴を上げる。


「気を失っただけよ。我からルールを破りはせぬ……オマエ達が破った際は、その限りではないがな」


 紫髪の男が鞘に黒剣を納め、細身の男を目で射貫く。


「此処より去るならば、追わぬと約束しよう。が、幾つか金品を置いていけ」

「きっ、金品……?」

「そうさな。挑戦料の代わりと思ってもらって構わぬ」

「は、はひぃぃっ!! どどっど、どうぞぉ!!」


 細身の男は自分と仲間の懐から財布を取り出し、ガリウスの方へ放り投げると、


「ししっ、失礼しましたァァァァ!!」


 仲間の巨漢と小男を足を手で掴み、足早に逃げ去っていった。


「……またしても期待外れ。人間とは、かくも軟弱者ばかりなのだな。して――」

「!?」


 紫髪の男が、そこでようやくユリアナを視認する。


「オマエはどうする? その力、我に試してみるか」

「ア、アンタ! 一体、何者なノ……! ハルベルトじゃないんでショ!!」


 酷く緊張したユリアナが、勇んで腰の短剣を抜き放つ。


 しかし、その手はガタガタと震えていた。


「ふむ。オマエは、我の噂を聞きつけて腕試しに来た者ではないのだな」


 何かを察した紫髪の男は、ユリアナから僅かに視線を外し、剣の柄に手を置く。


「我が名はガリウス。このエンタメ迷宮を守護する者だ」

「アンタもあの魔族の仲間なのネ……! アタシ達を分断して何が狙いなノっ」

「分断? あぁ、成程……」


 ユリアナの問いの意味を遅れて理解し、ガリウスは微かに笑みを零す。


「安心しろ……すぐに後を追わせてやる」

「すぐに後を――って、まさか!?」


 そう言って、ガリウスはゆるりと黒剣を抜き放った。


 その瞬間、ガリウスの全身から噴き出した闘気の圧が、ユリアナの体を否応なしに震え上がらせる。


(ゴ、ゴルトンがやられた……!? だケド、ルールは破らないって……アァッ、頭がごちゃごちゃスル!)

(それほど仲間に会いたくば、早々に撃退してやるとしよう。()()()()()()()()()()()()()()――)


 相手の不安を煽る言葉を吐いたガリウスであったが、その一言が多大なる勘違いを引き起こしたことに気付かない。


「しかし、一瞬で片が付いては面白みに欠けるのでな。オマエの全身全霊で以って我を楽しませよ、小娘」

「女だからって舐めないでよネ! アタシだって、ハルベルトに仕返しする為に修行したんだカラッ!!」


 ガリウスの圧に怯まず、ユリアナが短剣を逆手に持って突き出す――


「闇の精霊よ、虚無に潜みし影を我が元へ、夢幻(むげん)の足跡を示せッーー【幻踏(ミラージュ)】!」


 姿は見えずとも、至る所に精霊(ソレ)はいる。


 ユリアナの力ある言葉(願い)に、闇の精霊は一つの現象で以って応える。ユリアナの影が蠢き、五つに分裂。それら影が彼女の姿形を構成し、やがて四体の分身を創り出した。


「ほう。その分身……影を持つ上に、姿形、肌の色まで再現するとはな」

「「驚くのはまだ早いワ! 風の精霊よ、清き息吹を以って、()く速く我を導けッーー【加速(アクセル)】」」


 続けて、その求めに応えた風の精霊がユリアナの両足に疾風をもたらすと、ユリアナがその場で高速で駆け回り、ガリウスを攪乱し始めた。


「「どう? どれが本体か分からないでショ!」」

「ふむ……中々やるな、オマエーー」


 計五人。


 魔法による影で、あっという間に数的有利を作り出したユリアナに、ガリウスも少しは感心した様子を見せる。


「「ゴルトンの(かたき)ィ! くらえッ!!」」


 魔族相手に勝機を見出したユリアナが、分身四体を伴って一斉に攻撃を仕掛けた。


「――しかし、それはあくまでも人間にしては、だ」


 五人のユリアナが、全方位から時間差で強襲してくる危機的状況の中。


 本体を探すガリウスの瞳には一片の迷いも無い。


 何の躊躇いもなく地を蹴り、最も遠い位置にいたユリアナの脳天に黒剣を振りかざす。


「なっ、なんで分かっ……」

「終わりだッ」


 ユリアナの相貌が引き攣る中、黒剣の刃が額に到達――


「やらせませんぞォオオオオオッ!!!!」

「むっ!!?」


 ――その直前、横から飛び込んできた何者かに、ガリウスの体が突き飛ばされた。


「ユリアナ! 今の内に奴をっ……!!」

「「あ、アンタ……! ゴルトン!?」」


 なんと、ユリアナの絶体絶命のピンチを救った人物は、鎧戦士の男ゴルトンであった。


 ゴルトンは、そのまま両手でガリウスの体を拘束する。


「生きてたのネ……! てっきり殺されたのかト……」

「勝手に殺さんでくださいっ! 罠に手こずってたんですよ! それより、早くコイツを!!」

「え、ええ! 分かったワ!!」


 ガリウスの動きを封じるゴルトンだが、長くは持たないとユリアナも悟ったのだろう。


 分身を含む五人のユリアナが、ガリウスの身に短剣を突き刺そうと殺到する。


「――ふむ、礼を言う。手間が省けた」


 しかしその瞬間、ガリウスは冷静に状況を俯瞰して腰を落とした。


 重心を下げたその直後、ゴルトンの腹部を捉え、膝を鋭く突き上げた。


「ごぶあァァッ!!?」

「ゴルトン!?」


 鈍い音と共に、思わず拘束を解いたゴルトンの体が宙に浮く。


 その隙を見逃さず、ガリウスはゴルトンの鎧を掴むと、強靭な腕力で一気に振り回し、ユリアナの方へ放り投げた。


「ぁぐッ!?」


 勢いそのままに、ゴルトンの体が実体のユリアナに激突。


 その二人に追い縋るように、ガリウスが黒剣を掲げて舞っていた。


()()()()()()()()()()()奥義にて、逝くがいいッーー【斬魄絶意アストラル・スラッシュ】ッ!!!!」

「「ッーー!!!?」」


 それは、黒き閃光の如く――


 稲妻の速さで振り下ろされた刀身は相手に反応する暇さえ与えず、鮮烈に空間を裂き、ユリアナとゴルトンの肉体を頭上から斬り裂いた。


 果たして、二人の体から血飛沫は上がらず、肉も断ち切れてはいない。


 されど確実に、彼等の意識を奪っていく。


 ガリウスが床に着地し、その数瞬後にユリアナとゴルトンの体が床に叩き付けられる。


「オマエ達の戦意、我が一刀にて潰えた…………一撃断絶(いちげきだんぜつ)だ」


 ガリウスは黒剣を鞘に納めると、斬った二人を再び見ることなく踵を返す。


「あ……ぁ、ぁっ…………」

(う、そ……いま、なにが、おこっ、て――…………)


 ――今、何が起こったのか?

 ――何をされたのか?


 ユリアナとゴルトンは、ただただそれだけを考え続けた。


 だが、その答えが出ることは決してない。


 挫かれた意思が、それ以上の思考を許すことはなかったのだから。


(ジ、ン…………)


 二人の意識が薄れ、否応なく目蓋が落ちていく。


 その最中、辛うじてユリアナに見えたのは、ガリウスの膝下であった。


 その脚は、何故か産まれ立ての小鹿のように震えていて……


「はぁ……やはり、異性の幼子は苦手だ」


 苦々しく呟くガリウスの表情を、ユリアナが拝むことはなかった――





次回の投稿は、明日(10/18)。

⇒追記。日付を跨いだのち、改稿中に思わぬハプニング(Gに遭遇、棚の下に謎の液体滴る)が起こった為、(10/19)の夕方以降に投稿します。申し訳ありません。

 ⇒更に追記。改稿した文章に納得がいかず、ストップしてます。ですが、朝7~8時に投稿できるよう頑張ります。

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