第15話 修行の成果
Xで、今日の投稿は日を跨ぐかもと言ったな?
あれは嘘になった…………ガッカリした読者の皆、すまない!
「どこだ! ハルベルトォオオオ!」
冒険者のジンは怒りに任せ、乱暴に扉を蹴り開ける。
「よ、久しぶり。元気してた? 俺は超元気!」
果たして、そこには仮面を被りし魔族――魔装戦士ハルトが立っていた。
「テ、テメェって奴はっ……なんで冒険者の心理を突く罠ばかり仕掛けるんだッ!!」
(俺が冒険者だからダヨ!! ――なんて、とても言えないよなぁ…………)
仮面の下で苦笑いをしながら、頭を掻くハルト。
魔王に協力している以上、ハルベルトの正体――即ち、ハルト自身の身バレは必ず避けなければならない。逆に自ら教えたとしても、魔族の話を信じて貰える訳でもないのだが。
「その方が遥かに面白い! ――って理由じゃ、不服か?」
「あぁ不服だね! 迷宮には、珍しい財宝を取りに来てるだけだからな……迷宮攻略が娯楽である必要はねェ!」
「本当にそうか? 行く手を阻む罠や守護者……仲間と苦難を乗り越えた末に手に入れる宝。その過程こそが面白いんじゃないか! 俺はその手助けをしてるだけに過ぎない」
「余計なお世話だ、ヘボ魔族!!」
ハルトは迷宮哲学を爽やかに語ってみせたが、怒り狂うジンにとっては正に火に注ぐ油。全く取り合っては貰えなかった。
「本当は面白いって思ってる癖に我慢しちゃって……じゃあお前は、何の為に冒険者になったんだよ」
「金の為に決まってんだろがァ! 頭おかしいんじゃねぇのかッ!」
(そこは〝迷宮の為!〟って答えるとこだろ!? 金の為ってのも分かるけどさぁ!?)
同じ冒険者として、ジンにシンパシーを抱いてしまうハルト。
この者に限らず、冒険者の大半は一攫千金の夢に魅せられた馬鹿の集まりだ。もはや、分かり切った答えではあったが、それでも聞かずにはいられなかった。
少しでも迷宮を楽しんで欲しいという想いがあったから。
「なら、超エリート戦士であるこの俺を倒してから持ち帰るんだな」
「上等だ! 今度は油断しねえぞォ!」
互いの意見が割れた今、もはや話し合いは無用。元よりハルトとジンは敵同士だ。
両者共に剣を構え、互いを見据える。
二人の闘志がエリアに満ちる――
「では今度こそ見せてやろう。超エリート戦士の圧倒的パゥワァを!」
「ほざけェ!!」
その瞬間、ハルトとジンはどちらからともなく走り出した。
「はぁあああっ!!」
「死ねェェッ!!」
小細工も弄さず真正面から攻め、互いの影が交差する。
「「…………」」
両者共に一撃ずつ。剣を振り抜いた体勢で残心する。
やがて、一方の体から軽い血飛沫が舞った。
「――ぐっ、アアアアッ!?」
酷く狼狽えた様子で斬られた肩を押さえたのは、なんと冒険者のジンであった。
「ば、馬鹿な……!! 希代の冒険者であるこのオレがッ、なんでヘボ魔族なんかにッ……」
あろうことか、ハルトはジンの一刀を無駄のない身のこなしで躱し、強烈な一撃を叩き込んでいたのだ。
数週間前まで戦闘弱者だったハルトが、だ。
「どうした冒険者。その程度か?」
「くっ、マグレに決まってる! オラァアアアッ!!」
前回圧倒した相手に一撃を加えられた。
その受け入れ難い事実に、ハルトに煽られたジンは再び攻勢に出た。
だが――
「なッ……!? 当たらねェ!!?」
「よっ、ほっ、あらよっと!」
ジンが繰り出した無数の斬撃は、ハルトにより余裕綽々に避けられてしまう。
まるで、風に舞う羽のようだ。
自身の攻撃がことごとく敵をすり抜ける。かつて味わったことのない手応えの無さが、ジンの心に大きな焦りを生む。
「ク、クソがぁああああ!!」
力を込めて振り下ろした大振りの一撃を、ハルトは身を軽やかに翻して躱す。
「ハッ!!」
「ぐぅっ!!?」
そして、一瞬の脱力の後に振り抜かれた剣が、ジンの横腹を僅かに切り裂くに至った。
「う、ぐぅぅ……っ! な、なんで当たらねぇんだァ……!?」
自らの腹部を押さえて膝を突くジンに、ハルトは腹の底から笑いを込み上げてくるのを止められなかった。
「フハハハハッ! どうだこの身の捌きっ、俺の修行の成果は!!」
「な、何!? テメェも修行しただと!?」
「え、お前も?」
妙な共通点に、互いに顔を見合わせる。
「そうだ。だがッ、あんなに弱かったテメェが、一体どうやってそこまでの実力を身に付けやがった!?」
その問いに、ハルトは仮面に片手を添え、いかにも余裕ありげな口調で始める。
「フッ……お前には、この俺がどんなに苦しい目に遭ってきたか分かるまい」
「なにっ?」
「望んでもいない実践稽古で、クソ師匠に何度も、何度も痛めつけられっ……高速の斬撃を避ける恐怖に怯えつつ、尚且つ一撃を入れないといけない毎日――っ、本当によく耐えたっ……おれっっ!!」
――が、あまりに辛く厳しい修行に耐えた影響か、途中から声が震え出し、苦労のあまり涙さえ流していた。
「ま、魔族も大変なんだな……その、頑張れよ?」
「ありがとうっ……お前良い奴だな……!」
挙句、敵であるジンにまで同情されてしまう始末だ。
ハルトは更に感涙してしまった。
「よし、同情してくれた礼だ! 一つ、良いことを教えてやろう」
「あん? ん、んだよ……?」
「実は今、そのクソ師匠が……」
ジンの目に浮かぶ疑念を他所に、ハルトが敵に塩を送ろうとした、その時――
『ぬぅわぁあああああああっ!!!?』
「!?」
戦闘部屋を隔てた扉の更に遠くから、男の野太い断末魔が響き渡った…………
あの野太い悲鳴は、誰のものだったのでしょう……?
ジンの仲間である女斥候ユリアナ?
同じく仲間の鎧戦士ゴルトン?
それとも…………ただの演出??
今日の話が短めなのは、より緊迫感と緊張感を持続させる為、悩んだ末に次話とシーンを区切った為……
⇒追記。執筆が間に合わず、16話の投稿は10/16の夜に行います。申し訳ありません。
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