第14話 冒険者のリベンジ
先日は投稿できず申し訳ありません。
今回はいつもより長めです~!
ガリウスとの修行に、ハルトの肉体が慣れ始めた頃。
その修行の成果を試す、絶好の機会が訪れた――
「こいつらは……」
共有スペースで鳴り響く警報音。
モニターに映し出された冒険者達を見たハルトは、愉快そうに笑う。
「まさか、侵入者がこの迷宮最初のお客様達なんてなぁ。しかもこのタイミングとか……」
その者達は、かつてハルトが辛うじて撃退した三人組の冒険者であった。
「何か問題でもあるのか?」
「クソ師匠。……いや、単に運命的だなって」
隣にガリウスが立ち並ぶと、ハルトは小馬鹿にするように肩を竦める。
「ハルトよ……少しは師匠を敬ったらどうだ?」
「そういうのは、修行で手心を加えてから言ってくれ」
「それは出来ぬ相談だ。クロエ様の命は、弟子の頼みよりも優先すべきことなのでな」
「ちぇっ、頭が固いこって」
呆れ果てるガリウスに向かって、ハルトはふてぶてしく吐き捨てた。
不躾な態度を取るのは、何も優しくされなかったことが原因ではない。ただの真性の持ち味なだけである。
「それで、どうなのだ?」
ガリウスがそっぽを向きながら、ハルトに尋ねる。
「えっと……何が?」
「勝つ自信はあるのかと訊いている。一度、この者達と戦ったのだろう?」
「あるにはある、けど…………ははーん。さてはガリウス、弟子である俺のことを心配してくれてんのー?」
ガリウスの態度から真意を汲み取ったハルトがニヤニヤと笑みを浮かべると、ガリウスは顔を強張らせた。
「おっ、図星?」
「フン……」
その反応を見て、ハルトはますます調子に乗った。
「いやまさか、ガリウス師匠がそんなに俺のことを想ってくれてたなんて……! 弟子として感激――」
普段の仕返しとばかりに揶揄っていると、ハルトの首筋に鋭い刃が突き付けられた。
「そのよく回る口を今すぐ閉じろ。この迷宮では禁忌とされる殺人に、再び手を染めてしまいそうなのでな」
「…………す、すみひぇん」
ガリウスの殺気溢れる命令を前に、急激に萎縮したハルトは素直に謝罪した。
「全く……しかし、そういうことなら、尚更修行の成果を試す良い機会だ」
剣を鞘に納めたガリウスが、その場からフェードアウトしかけていたハルトの肩を掴んだ。
「ハルト、宝物庫を守る守護者として出撃しろ」
「こ、断る! 実はそのっ、えっと……そう! まだ筋肉痛が治ってなくて~!」
「オマエに拒否権はない。既に昨夜、クロエ様の承認を得ている」
「チィッ!!」
言い訳をする前から既に逃げ道が潰されていた。
嫌な予感がして逃げ出そうとしたハルトの行動が無意味に終わり、ハルトは悔しげに床を蹴る。
「心配せずとも良い。我も他のエリアで侵入者を阻むのでな」
「えぇ~、どうせなら全員やっつけてくれよ~」
「我にとって、それは実に容易い。しかし、我に完膚なきまでに叩きのめされるのは、侵入者にとっては面白くないだろう? それではクロエ様の――エンタメ迷宮の為にならぬ」
「うっ……それを言われちゃ、頑張るしかないじゃんか……」
「――やる気になったようで何よりだわ」
ハルトが肩を落としたところで、後ろから声が掛かる。
ハルトとガリウスが振り返ると、そこには穏やかに笑うクロエがいた。
「ガリウスに鍛えてもらった成果、私に見せて頂戴」
「我の修行を無駄にしてくれるなよ?」
「ああ――」
魔王と師匠からの期待の眼差しを受ける中、ハルトは変身ブレスを付けた右手を掲げて「変身」と口にし、魔装戦士へと姿を変える。
「前回は運よく手に入れた勝利……今度はキッチリ奴等を楽しませ、そして勝ち取るっ!!」
「その意気よ。ハルト、ガリウス……侵入者を丁重に歓迎してきなさい!!」
「了解!」
「お任せあれ」
魔王クロエの出撃命令に、二人は力強く頷いた。
◆◇◆
「――クク、また性懲りもなく来てしまったぜェ……このエンタメ迷宮になァ!」
「柄にもなく修行した成果を見せる時ですぞ。主にリーダーが」
「雑魚の魔族に手酷くやられたリーダーが、今回どのような活躍を見せるのカ! 今後も目が離せませんネ! 次回の活躍にご期待ください!」
「まだ始まってもねぇよ!? 大体、テメェらだってアッサリやられたじゃねぇかァ!」
迷宮に入り込んだ冒険者三人組が賑やかに歩を進める。
リーダーの男剣士は、相も変わらず鎧戦士の男と斥候の女から雑な扱いを受けていた。
「でもまさか、一度訪れた迷宮にまた挑戦しに行くなんてネ~」
「他の迷宮は探索し尽くされて旨味が無いのに対し、ここは生きていますからね」
「それだけじゃねェ! 前回オレ達は、この迷宮でこっぴどくやられた。しかもオレ達が格下と侮っていた、あのハルベルトとかいう卑怯な魔族によってなァ……その借りは必ず返すッ!!」
「そうネ、あんなエロ漫画みたいな展開は……~~っ、もう御免よっ」
以前、隻眼コボルドとインテリのコボルドにやられた仕打ちを思い出してか、顔を赤らめた斥候の女が両手で体をかき抱くと、
「そ、それはァ……ちょ~っと見てえな、へへっ」
その光景を思い出し、より扇情的に脚色した男剣士が露骨に鼻を伸ばす。
パーティのリーダーであるのに、仲間が再び倒される心配すらしていなかった。
「なんでこんな変態とパーティ組んでるのか、時々分からなくなるワ……もうリーダーって呼ぶのやめヨ」
「私も」
それを見て、斥候の女と鎧戦士の男は、ほとほと呆れ果てたのだった。
その後、彼等は難なく最初の大扉に辿り着いた。
「いよいよだな。この通路は楽勝だったが、二人とも警戒を忘れんなよ?」
「それをリーダーが――ジンが言う~? 一番警戒して欲しいのはジンなんだケド~?」
「うぐっ……」
女斥候の指摘に、男剣士――ジンが苦々しい顔をする。
前回の攻略では、主にジンが罠に嵌っていた。故にその指摘はもっともなものだ。
「た、確かにぃ……前回は、つい油断してやられましたァ~。だがあの時はその、ほら? 花を持たせるつもりでェ……!」
「無駄に言い訳して惨めだと思わないノ?」
「ジンの油断は日常茶飯事ですが、もう少し理知的な行動を心掛けてくれませんと。ジンは一応、その……私達のリーダーですし」
「グハッ、ごふっ、ガハァ!?」
無慈悲な言葉が、ことごとくジンの胸に突き刺さっていく。
されどジンは、リーダーの威厳を見せる為に負けじと声を張り上げる。
「だ、だが……! 今度のオレは一味違う! 見せてやる、このオレの華麗なる攻略を――!!」
「ゴルトン。今回も頼りにしてるわヨ」
「私もです、ユリアナ。必ず財宝を手に入れましょう」
ジンが勇ましい台詞を言っている間に、女斥候と鎧戦士の男――ユリアナとゴルトンは、ジンを置いてエリア内に足を踏み入れていた。
その背中が見えなくなる程に放心した後、ジンはようやく我に返った。
「お、オイィ!? なに無視してんだオラァ!! リーダーを置いていくんじゃねェエエエッ!!」
慌てて仲間達の後を追うジン。
あっさり置いて行かれはしたものの、二人は最初のフロアでジンを待っていた。
しかして、その理由は優しさによるものではなかった。
「回転する丸太、ですか……ありきたりですが、前には無かった罠ですな」
「回る速度は中々速いし、それぞれの丸太も角度が不規則に変わル。丸太の下を潜ることも駄目そうネ」
エリアの中心で、高速横回転する十字型の大丸太――即ち『渦巻き丸太旋風ゥ!』。
罠の初お披露目以降、多くの冒険者を足止めし、または撃退してきた実績から、エンタメ迷宮ではよく重宝している罠である。
「面白そうな罠じゃねぇかァ」
「ジン」
「なんとかタイミングを覚えて、突破するしか方法はねぇだろォ?」
遅れて合流したジンが、二人にアイデアを共有する。
「いえ、あの不規則な軌道を記憶するのは中々に骨が折れます。ここは、私が縄で動きを止めましょう」
しかし、ジンの案はあまり現実的ではない。
そう判断した鎧戦士のゴルトンは、メイスの柄を腰のベルトに差し込むと、鞄から太めの長縄を取り出した。
そのまま、縄の三分の一を使って大きな輪を作り上げる。
「良いのかァ? それだとオマエが……」
「なぁに、適材適所ですよ。あの魔族に借りを返す為なら、足止めでも何でもします」
ジンに覚悟を見せたゴルトンはカウボーイよろしく、頭上で縄を大きく振り回し始めた。
彼の目に迷いはない。ならばこれ以上の問答は無用――
「……よし、じゃあ頼んだァ! 行くぞユリアナ!」
「ええ!」
ゴルトンの力を信じ、ジンとユリアナはゴルトンが丸太を止めるタイミングを待つ。
「行きますぞ……! それ!」
その掛け声と共に放たれた長縄が、丸太目掛けて飛んでいき――
「ぉおっ!? ぐッ、んぎぎぎぎっ……!!」
縄の先端にある輪は、ものの見事に丸太に引っ掛かった。
同時に、ゴルトンの体が凄まじい勢いで引き摺られていくが、重装備で大柄のゴルトンは腰を深く下ろし、気合でその場に踏み留まった。
「い、今のうちっ、ですぞっ!!」
「すまん! 後は任せたァ!」
「アンタも必ず追い付きなさいヨ!」
ゴルトンの献身が、仲間達に僅かな猶予を作り出す。
ジンとユリアナは止まった丸太を素早く潜り抜け、宝物庫に一番近いと思われる正面の扉に入っていった。
(やりましたか! 私も後を追わなければ……! しかし、あまり持ちそうにない。回転に逆らわず時計回りに進めば、なんとかっ――)
ゴルトンが罠を突破する方法を画策していた頃、ジン達の足は次のエリアで足止めを食らっていた。
「これは、さっきのと似た感じの罠だな」
彼等の眼前に広がるのは、細くて長い一本道の通路。しかして、侵入者の行く手を阻むかのように、左右の壁からは石柱が規則的に飛び出していた。
石柱は壁から壁へと横に向かって伸び――右、左、右と交互に、一定の間隔を空けて断続的に現れ、再び引っ込む――それを繰り返している。
侵入者にとって唯一の救いは、石柱を一つ越える毎に安全地帯が存在していることだろう。
「こういう罠は、遊び感覚で攻略できるから楽しいよなァ」
「そうネ。この罠はタイミングさえ分かれば、なんてことないワ。カウント、いくわヨ!」
「任せたァ!」
その場で、ユリアナが片足をタンタンと鳴らし始める。最初の石柱が飛び出すタイミングを測っているのだ。
「今!」
数秒のカウントの後、ユリアナが叫ぶ。その合図に合わせ、ジンも同時に前へ跳び出した。
最初の安全地帯に降り立つや否や、二人は同じ要領で次々と罠を回避していく。
「アハハ! 面白くなってきたか……モ!!」
「だな! だがあの魔族、今回は手抜きが過ぎるぜェ! タイミングはもう掴んだからなァ、こっからは俺のターンだッ!」
罠を容易に乗り越えられる呆気なさから調子に乗り、ジンがユリアナを置いてどんどん進んでいく。
そんな好調を嘲笑うかのように、
「なっ……!?」
「ジン!?」
踏み込んだ安全地帯の床が、突然大きく傾き、沈んだ。
瞬間的に出来た段差に、ジンは否応なく躓き膝を突く。
「ぐっ…………はっ!?」
ジンが顔を上げた。右側の石柱が間髪入れずに襲い掛かってきていた。
危機的状況に思考は停止し、手足が固まる。
「ジン、危ない!!」
「ユリアナ!?」
動けないジンに代わって動いたのは、後ろにいたユリアナだった。
背後からジンにタックルを仕掛け、ジンの体を前方へ強く突き飛ばす。安全地帯に勢いよく転がったジンは、そのおかげで石柱に当たる寸前で逃げおおせていた。
「あぐッ!?」
だが、身代わりとなったユリアナは襲い来る石柱に無防備な身体を晒してしまい、右から勢いよく伸びた石柱によって弾き飛ばされてしまう。
「ユリアナ!」
左側の壁にぶつかった瞬間、壁が一回転し――ユリアナの姿は、壁向こうへと消えて失せてしまった。
「ユリアナァァァァ!」
独り助かったジンは悔しさのあまりその場で叫ぶ。
「く、くそったれ! 俺がまた油断した所為でッ……! ハルベルトめ、なんて卑劣な罠を考えやがる! この借りは百倍にして返してやるゥ!」
怨嗟にも似た言葉を吐くジン。
ユリアナが身代わりとなったおかげで、次のエリアへの扉は既に目前に迫っている。
仲間を救出したい。だが、それ以上に迷宮創設者への怒りが勝っていた。
残る石柱を、ジンは極めて冷静に見極めて回避し、次のエリアへと進んだのだった。
冒険者を食い止める罠が少ないんじゃ? と思ったそこの貴方……ご案内を。奴等を始末するのは、何も罠だけではないよ。クックック…………
今日はギリギリセェーフ!!(それが普通)
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