第7話 二段構えの罠
先日は、投稿できず申し訳ございません!
面白い内容にできたと思ってます。
「〈カツアゲ隊〉! 右の扉に行くぞ!!」
「「「「ウィー!!!」」」」
回転する丸太の罠は、動きが停止すればただの置き物に過ぎない。
ハルトは〈カツアゲ隊〉に素早く指示を出しながら、部屋の壁と罠の隙間を通り抜けると扉を開け放った。
「逃がすわけねぇじゃん!」
「待ちなさぁぁい!!」
そのまま扉の向こうに駆けるハルト達を、冒険者達が遅れて追走する。
だが、先程丸太で受けたダメージが残っているようで、体は思うようには動かない。ハルト達との距離は依然として開く一方だ。
「はっ、はぁっ……! くっ、はぁ……っ!」
「――ん? 皆どうしたぁ!?」
そんな中、武闘家のチャラ男を除く四人の冒険者が、次々と足を止めて膝を突き始める。
「さっきの衝撃で、鎧が凹んでっ……ガチで、呼吸がっ……!」
「え、それマジやばいっしょ!?」
チャラ男は武闘家だ。身を守る重装備は却って動きの妨げになるため、基本的には軽装で行動する。
だが、金属製の防具を身に着けていた他の仲間達は、丸太の衝撃以上のダメージを受けていた。
「今回は守護者さん捕まえるだけだし、鎧脱いじゃえって!」
「た、確かに、それあるぅ! 脱ご脱ごぉ~!」
「その提案、マジ神っ!」
チャラ男の提案に、彼等はぎこちない動きで高級な装備を脱ぎ捨てていく。
「よっしゃ、全員脱いだな?」
「「もち!!」」
「んじゃ、守護者さん捕まえに行こうぜ皆ぁ!」
身軽になった仲間達を引き連れ、武闘家のチャラ男はハルト達が進んだ扉に入り、
「なぁっ……!?」
次の瞬間、彼等は大きく度肝を抜かれた。
「――いやぁ、待ちくたびれたぞ! あまりにも遅いんで、待っててあげましたーっ!!」
眼前に広がっていたのは、次の扉までひたすら一直線に伸びる通路だった。
それは距離にして、実に五十メートル近く。
背後以外逃げ場のない通路の中間で、先に逃走した筈のハルト達が、冒険者達を待ち構えていた。
「く、くぅぅっ!! 守護者さんめぇ、舐めやがってええっ!!」
その舐め腐った態度に、チャラ男達はわなわなと拳を握り締める。
「悔しかったらここまでおいで~~!! ベロベロバァ~!!」
対して、ハルトはお尻を彼等の方へ向けて叩いた後、自分の股を覗き、変顔を晒した。
数々の煽りを受けた彼等は当然――
「ぜってぇしばくッ!!!!」
「コロォォス!!」
ハルト目掛けて、鬼の形相で走り始めた。
『――おい、ハルト! お前これだけ余裕こいて負けたら、マジで許さねえかんな!!』
「ネモ、見てたのか。まぁ心配すんな――」
耳元の魔導伝音機から聞こえた怒声に、ハルトは懐から小型の装置を取り出す。
「『ゴロゴロころがぁーる君』作動!」
「ウィー!!」
〈カツアゲ隊〉の掛け声と共に、ハルトがチャラ男達の後方に向けて、装置のボタンを押した。
――ガコン!!
通路に重低音が響く。直後、彼等の後方の天井が傾斜をつけて急落下した。
「な、なんなんだ!?」
床を揺らす衝撃に、流石のチャラ男達も反射的に足を止めて振り返る。
視線の先では――巨大な岩が、重力に引かれて坂を転がり始めていた。
「さぁ、罠の定番をご堪能あれ!!」
「にっ――逃げろぉぉおおおおおおおおおっ!!!?」
岩は音を立てながら、傾斜で一気に加速。
空気を裂いて迫りくる圧倒的重量感に、ハルト達はいち早く逃げ出した。そして、岩に最も近いチャラ男達も脇目も振らず走り出す。
「うぉおおおおおお!? ヤバい! ヤバいってェェエエエッ!?」
しかし、彼我の距離は開くどころか、ますます縮まっていく。
少しでも動きが鈍れば最期、間違いなく岩に圧し潰され、肉塊と化してしまうだろう。
「見て!! あそこに横穴が……!!」
窮地に陥ったその時――
剣士の女が、救いの手さながらの横穴を右前方の壁に発見した。
そこは丁度、通路の中間地点にあたる。
「よしっ、これで助か――」
「ぬぁっ!?」
だが横穴に飛び込む前に、足がもつれた屈強な男が転倒。成す術なく、転がる岩の餌食となった。
「マジルゥ!? っ、くっそぉ!!」
仲間の犠牲を尻目に、チャラ男達は横穴に飛び込み――今まさに、仲間を圧し潰した岩が眼前を通り過ぎていった。
「仲間の仇だ! お前らも潰れろぉ!!」
岩の転がる速度は尋常ではないほどに速い。
チャラ男は、罠を作動させたハルト達が自滅することを願った。
「――ところがどっこい、残念でした!」
「え」
唐突に聞えた声に、チャラ男が横穴から顔を出す。
生憎と、巨大な岩の所為でハルト達の姿は見えない。しかし、このまま進めば、少なくとも岩が突き当たりで砕け散ることは確実だ。
「なっ――!?」
チャラ男の予想に反して、岩は壁にぶつかるどころか、まるで飛ぶように上昇し、天井の穴へと吸い込まれていった。
彼の視界に残ったのは、閉じられた扉と床から天井へと続く上り坂であった。
「あの傾斜……! だから、余裕だったワケね……!」
肉塊は転がっていない。つまり、ハルト達は逃げ延びたのだ。
その事実を理解すると、チャラ男は忌々しげに吐き捨て、横穴に顔を引っ込めた。
「もう大丈夫っぽい。皆、怪我はーーねネネネネネネネッ!!!?」
危機が去ったと思ったのも束の間。
突如として、凄まじい電撃がチャラ男達に襲い掛かる。
「あびゃびゃびゃびゃ!!!?」
だが、それもすぐに止まった。
仲間達が崩れ落ちていく中、チャラ男は膝を突きながら、ふと頭上を見た。
「ま、まどう……ぐ……?」
横穴の天井には、妙な形の魔導具が取り付けられていた。紫色の魔石を中心に、金属のかぎ爪で四方を囲んだものだ。
チャラ男は、電撃の発生源がその魔導具にあると気付いた――が、しかし、彼の意識は、間もなくして闇に沈んでいった。
冒険者達が気を失ってすぐのこと。
ハルト達は、『ゴロゴロころがぁーる君』の通路に戻ってきていた。
「死んで…………ないな。流石、『ほどよい電流を貴方に』と謳うだけある」
ハルトは、横穴で気絶している冒険者達の様子を確かめ、胸を撫で下ろす。
「岩に潰された奴はどうだったー?」
「はい! 回収班と私がはじき出した計算によりますと、重傷である可能性は六十パーセントです!!」
「微妙なとこだな……? よし、治療室に運んでやれ。後、こいつらも頼む」
ハルトがインテリ・コボルドに指示を下す。
彼とバーサク・コボルドは冒険者達の首根っこを掴むと、協力してこの場から離れていった。
「後は、こいつらの装備か……」
「ハルベルト様。恐らくですが、『渦巻き丸太旋風ゥ!』のエリアにあると思われやす」
「おぉ、確かに。この通路で見た時には、無かったからな」
隻眼のコボルドに進言されて、ハルトは手を叩く。
「なら、そっちの回収頼む」
「わかりやした。おい、行くぞ」
「ミーに命令するのかーい? まぁ構わないけどねぇ!」
ハルトに指示された隻眼のコボルドは、意識高い系のコボルドを引き連れて、一つ前のエリアに戻っていった。
「…………」
自分以外誰も居なくなった通路で、ハルトは大きく深呼吸する。
そして――
「ワーッハッハッハッハッハ―!!!!」
高らかに大笑いした。勝利の雄叫びが如く、盛大に勝ち誇るように。
「さすが俺!! 俺達をあっさり倒した五人組を、罠だけで倒してしまうとは……やはり、俺の知略は最強かもしれん……」
『そうだなぁ、うん。最強さいきょー』
したり顔で激しく自画自賛していると、不意にハルトの耳元で酷く沈んだ声が聞えてきた。
「どうしたネモ? 財宝を奪った奴等を撃退してやったんだぜ? もっと喜べよ~!」
『今回の出費がデカ過ぎて、喜ぶに喜べねぇんだよぉ……次も勝てるんだろうなぁ?』
「モチのロォン!」
『あまり調子に乗っていると、足元を掬われるわよ?』
「ハイハイ! わかってますよクロエ様ー!」
気分を盛り下げてくるネモとクロエに、ハルトは雑に返事を返す。
『とにかく……ガリウスが来るまでは、なんとか頑張って頂戴』
「大丈夫だ……! どんな奴が来ても、俺のエンタメ迷宮に敵う奴はいなぁぁぁぁい!!」
一度負けた相手を完膚なきまでに負かしたことで、すっかり有頂天になっているハルト。
その自信と余裕が、まさかあのような出来事によって粉々に打ち砕かれるとは――ハルトは、今の時点で夢にも思っていなかった。
目の前に危機的状況を打開できる手段が転がってくると、それを掴みたくなるのが人間の心理ですよねぇ。
焦っている時は尚更、ね。その心理を逆手にとってやると、人はアッサリ罠に掛かるんだよ。
↑ ↑ ↑
この思考を素でやってのけるハルトです!
★感想・誤字・脱字などがございましたら、ページ下部から行えます★
【おまけ】
チャラ男「だ、誰だお前はぁぁぁぁ!?」
治療室の女魔族「黙りなさい、人間」
態度の悪い冒険者には、治療のポーションを瓶ごと叩き付けて治します……!




