第3話 ダッシュね
どこで話を切るか悩んだ末、こうなった。
てわけで、今日は短めのお話でお送りします~! ただ、ハルト達の会話は面白いです(自画自賛)
「――ルト……ハルト。起きて」
対策を練った翌日。
ふと聞えた心安らぐ声に、自室で就寝していたハルトは重い目蓋を持ち上げた。
「んぁ……?」
「朝よ、起きて」
寝ぼけまなこで声のする方向を見ると、そこには白と肌色の物体。
「…………クロ、エ?」
ベッドの縁から顔を覗かせていたのは、雇い主のクロエであった。
いつも早朝に起こされるおかげで、ハルトにとってその声はすっかり目覚まし時計代わりになっている。
「おはよう。今日も良い寝顔だったわ」
「え……もう、朝? えぇぇ…………」
クロエのモーニングコールに、ハルトは酷く絶望した。
防衛戦で未だ疲れたままの体が「まだ起きたくない」と懇願している。
にもかかわらず、体を叱咤して起きろと言うのか――と、ハルト自身もクロエに無言の抗議を行った。
「言われなくても、ハルトの言わんとしていることは分かるわよ」
「ほ、本当か……!?」
「ええ」
クロエが慈愛に満ちた微笑みを見せ、ハルトの期待は大いに膨らむ。
「ハルトが言いたいのは、つまり……」
「ああ! つまり休――!」
「『いつも起こしてくれてありがとう』でしょ?」
「ちがぁうっ!!」
期待を裏切られた悲しみで、ハルトの体は一気に起き上った。
「休暇だよ休暇!! 休みをくれって言ってんの!!」
「あら、おかしいわね。いつ言ったのかしら……」
「いま言いましたー! すみませんねぇぇっ! でも俺の雇い主兼魔王なら、部下の健康状態にも気を配ってくれませんかぁ!?」
惚けるクロエの白々しさに苛立ち、ハルトはやけくそ気味に頼み込む。
すると、クロエがその反応を見て、クスクスと笑い始めた。
「な、なんだよ」
「……ふふふっ、ごめんなさい。私に振り回されるあなたが、あまりに可愛らしくて。つい、ね」
「っ……」
いたずらっ子のように舌をペロリと出すクロエに、ハルトの顔は熱くなる。
「休暇だったわね? 良いわ。エンタメ迷宮は、今日は一日お休み」
「え、良いのか。そんな急に決めて」
迷宮を攻略しに来る冒険者達は、本日の迷宮が休みになったことなど知る由もないだろう。「反感を買うんじゃないか?」と迷宮の心配をしながら、ハルトは彼等のことを不憫に思った。
「急じゃないわよ。あなたや〈カツアゲ隊〉の皆に休暇をプレゼントする為に、一週間前から看板で告知していたもの」
「そうだったのか……だがッ――ひゃっほーーいっ!!!! 休暇だ休暇ーーっ!!」
心の奥底から遅れて込み上げてきた喜びに、ハルトの体は無意識に踊り出した。疲れた体が、休暇の知らせに歓喜しているのだ。
「――ただし」
……と、クロエが言葉を切り、喜びのダンスに水を差す。
「あなたには、今からお使いに行ってもらうわ。王都にね」
「なんでだぁぁぁぁっ!!?」
更に襲い掛かってきた休暇潰しのお使いに、ハルトはその場で崩れ落ちた。
「以前買ってきてくれた小説が単巻完結で、少ししか楽しめなかったのよ。次はもっと巻数の多い小説か漫画を所望するわ。ガリウスが来るまでの暇つぶしにするから」
「断るッ! 断固として拒否するッ! 俺の休日を邪魔されてなるものかァ!!」
「それと神託の件も調べてきて頂戴。用事を終えたら、遊んできてもいいから」
「それでも断るッ!!!!」
「……来月の給金――――」
びくっと、ハルトの体が跳ねた。
眼前には、「うふふふ」とにこやかに笑うクロエの顔が。
「ダッシュね」
「承知しました魔王様ァァッ!!」
来月の給金を盾に催促してくる魔王に、ハルトは屈服した。
そして、涙ながらに走った。
既に慣れつつある、魔王の横暴さと自分の従僕気質を嘆いてーー
「くっそぉぉぉぉうっ! 反射的に動く自分が恨めしいぃっ!!!! 魔王はやっぱり魔王だったなチクショォォォォ!!!!」
その後――
財布を持って全力疾走するハルトの姿が、居住区の廊下で確認された。ハルトのすれ違った作業員達は、その光景を温かい目で微笑ましく眺めていたという…………
「あれ? これ、経費で落ちるよな……?」
横暴な魔王には逆らえない。
給金を盾にされたら尚更、ね…………(この世界にパワハラに関する法とかないしね!)
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