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魔王様リバイブ! ~美少女魔王と始めるエンタメ迷宮運営ライフ~  作者: お芋ぷりん
第2章 魔王が誇る最強の忠臣

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第1話 初めての敗北

本日も遅くなってしまい申し訳ございません!!

 




 エンタメ迷宮の噂も少しは広まったのか、客足は少しずつ伸び始めていた。


 亀が歩くような速さだがエモトロンの収集も捗り、守護者としてのハルトは未だ負けなし。初防衛から一ヶ月が過ぎた今でも無敗記録更新し続けている。


 魔王クロエの復活計画は順調に進んでいた。


「これで最後だぁっ!!」

「ぐぇああああっ!?」


 ――そう思われた、夕方のエンタメ迷宮での出来事だった。


 冒険者の拳をもろに顔面で食らい、魔装戦士ハルト(ハルベルト)の体が派手に床を転がる。


「よっしゃあ! 守護者を倒したぜ!」

「やったわね!」

「…………み、見事だ。よくぞ、この俺を乗り越えた……」


 仲間同士で喜ぶ冒険者達をハルトは称えた。


 〈カツアゲ隊〉も既に倒されてしまい、冒険者達の攻撃を幾度となく受けたハルトの体には、立ち上がる力さえ残されていなかった。


「さぁ、冒険者達よ。宝物庫の財宝を持ち帰るといい」

「いえすっ! 看板に書かれていた通りだ……! 皆、行こうぜ!」


 這いつくばるハルトが敗北時のマニュアル通りの台詞を口にすると、冒険者数人は宝物庫の扉を開けて中に入っていく。


「いやあ、(もう)(もう)け~!」


 そして数分もしない内に、冒険者達がその腕一杯の財宝を抱えて出てきた。


「守護者さん、あざーっす!」

「け、結構取るな……」


 その量をハルトがざっと見積もったところ、宝物庫全体の五分の一に相当することがわかった。


「これくらい勝者の権利っしょ。迷宮のルールには、ちゃぁ~んと従ったぜ?」

「いや、それにしても限度が……」

「あ、まだ回収したいから手押し車を取りに行っていい?」


 そのふざけた言い分に、ハルトの怒りは一気に頂点に達した。


「駄目に決まってんだろうがッ!? また挑戦しに来いボケェェッ!!!!」


 そんなハルトを見て嘲笑を浮かべながら、冒険者は口を開く。


「はははっ! ()()()()()()()()()()()()、次も楽勝だな!」

「っ!?」


 その瞬間、冒険者の言葉がハルトの心に深く刺さり、鋭い棘のように残った。


「ま、それなりに楽しめたし、また来るよぉーん!」

()()()()()()()()()()()()の前にドンドン稼がなきゃね~!」

「……ああ、はい。また来てどうぞ」


 失意のなか、ハルトが機械のように返事をすると、冒険者の一団は満悦そうにエンタメ迷宮を去っていった。


「…………くっそぉぉッ!!」


 苦々しい声がエリア内に響き渡る。


「初めて、防衛に失敗しちまったっ……しかも、あんなふざけた奴等に……!! くっ!」


 ハルトは、自分が弱いことを重々承知していた。


 しかし、だからこそ知略を凝らし、罠を張り巡らせ、仲間と協力して冒険者を撃退してきたのだ。


 エンタメ迷宮の守護者として初めて味わう敗北感に、ハルトの心は酷くざわついた。


『――ハルトはよく頑張ったわよ。お疲れ様』

「気休めはよしてくれよ、クロエ。人生負け続きだった俺でも、結構ショックだったんだぜ? はぁぁ……」


 耳元の魔導伝音機から聞える慰めの言葉に、ハルトは大きな溜息を吐く。


(今日も俺が勝つって思ってたんだろうなぁ……期待を裏切っちゃったな)


 防衛戦を共有スペースで観ていたであろうクロエ。彼女の悲しむ姿を想像すると、ハルトの胸は酷く痛んだ。


『……ともかく、早く治療室に行って治療してもらいなさい。〈カツアゲ隊〉の皆も連れてね』

「はいよ」


 クロエの指示に従い、立ち上がったハルトは倒れている〈カツアゲ隊〉のもとに向かう。


『その後は、一緒に()()()()()()()お願いね?』

「ネモの? …………あぁ」


 クロエの言葉の意味について一瞬悩んだものの、ハルトはすぐにその答えに思い至ったのだった。



 ◆◇◆



「うわぁ」


 治療を終えて共有スペースに戻ってくると、ハルトは改めて〝フォロー〟の必要性を感じた。


「あ、あたしの……あたしの、お、お金が……ぁ、ぁはは…………」


 変身を解いたハルトの眼前には、干物(ひもの)が横たわっていた。


 否――一瞬でもそう思わせる程に憔悴したネモが、長椅子にぐったりと腰掛けている。


 泣き疲れたのか、目元は赤く腫れており、目を見開いたまま口をパクパクさせていた。


「こりゃ酷い」

「でしょう? ハルトが負けた瞬間からこの様子よ」


 顔を引き攣らせるハルトの横で、クロエが頭を抱えて困り果てる。


 やつれたネモの姿に、ハルトは同情すると同時に申し訳なさも感じた。


「悪かったよ、ネモ。俺が弱いばっかりに、財宝を取られちゃって……」


 謝意を伝えるべく、ネモに近付いたハルトは素直に頭を下げ――瞬間、襟元が強く引っ張られた。


「にゃら、ちゃんと死守してくれよォォォォん!! ちゅぎはっ、ちゅぎこそはぁ断固死守ぅ!! 本当にぃっ……! たにゃのむからぁぁぁぁんっ!」

(め、面倒くせぇ……)


 失意の淵から蘇ったネモがハルトの襟元を掴み、揺すりまくる。


 それも化粧が更に台無しになるほど号泣しながら、鼻水をぷらぷら垂らした状態でだ。


「なぁ、コレなんとかしてくんない?」


 折角、着替えた服もネモの涙と鼻水で汚れてしまった。


 ハルトは堪らずフォローを断念し、横にいる雇用主に子犬のような視線を向ける。


「あら、役得じゃないの? 女の私から見ても、ネモはかなりの美人だと思うけれど」


 クロエは微笑ましげに首を傾げた。


 ハルトも胸元に当たる柔らかい感触には中々にそそられるものを感じていた。が、取り乱すネモを一瞥してから首を振った。


「化粧の崩れた女ほど萎えるものはない。俺からすれば、クロエの方が魅力的だけど?」

「そう……私が魅力的なのね…………………………え?」


 その何気ない一言に、クロエの表情が遅れて固まる。


「私が、魅力的……ハルトから見て、私が…………」


 嚙み締めるように言葉を反芻する。そして意味を理解した途端――


「――ひぁっ!?」


 ポヒュン、と音を立てるような勢いで、クロエの顔が上気した。


「なっ、ななな、なぁっ……!」

「あれ? 俺、いま変なこと言ったか?」

「きゅ、急に褒めたりしないでよ!? わ、私がっ……その、可愛いだなんてっ」

「はぁ?」


 ネモの存在も忘れ、クロエが照れくさそうに顔を背ける。


 だが、当のハルトは意味が解らないとばかりに眉をひそめた。


「流石にそこまで言ってないんだけど……まぁ、あながち間違いでもないか」

「は、謀ったわねっ……これじゃあまるで、私が自意識過剰のイタイ女みたいじゃない!!」

「いや、今のは明らかに自爆だろ」


 涙目で睨み付けるクロエの抗議もハルトにはどこ吹く風。


 〈残虐の魔王〉と恐れられているクロエも、異性からは褒められ慣れていなかったのだった。


「ごほんっ……さ、さぁ! これから迷宮運営について話し合うわよ~!!」


 先程の醜態を取り繕う為に、クロエは咳払いをしてから、無理に声を張り上げた。


「ネモのフォローは?」

「今は今後の対策を練るのよ……それこそが心を癒すキッカケになる筈よ!」

「ほんとかなぁ?」


 なんとも強引なこじつけにハルトは首を捻る。


 だが、最終的には自分を納得させて長椅子に座った。それもこれも、先の防衛戦での不安が影響を与えていたからに他ならない。


「ハルトやネモ、そして作業員達のおかげで迷宮の知名度は上がり、挑戦してくれる冒険者も増えたけれど……」

「満足に歓迎できなくなってきてるよなぁ……」


 その原因は、現在の防衛体制に関係している。


 今の防衛要員は、ハルトと〈カツアゲ隊〉を含めた五人のみ。

 資金が足らないので、新しい人員は雇えず。

 冒険者を罠で足止めしようにも限度がある。


 そして、それら問題点を更に悪化させているのは、冒険者が朝昼と絶えずやってくる点にあった。


「エモトロンは貯まるけれど、嬉しい悲鳴よね」

「俺達防衛要員の負担はとっくに限界を超えてるよ……特に俺。少数精鋭すぎる…………」


 詰まる所、迷宮を防衛する上での余裕がなさすぎるのだ。より単純化すれば、圧倒的に戦力が足らない。


「休憩時間ほぼないし、このままじゃ今日みたいに負けが続く悪循環に……」


 その光景を想像しただけで、ハルトは身も毛もよだった。


 とはいえ、冒険者が持ち出せる財宝の量には限界があるので、現財宝の五分の一で済んだ事が唯一の救いだろう。


「というかだな、なんで運営資金を宝物庫に入れとくんだよ? 取られるのが駄目なら、別の金庫にでも保管しとけばいいだろ」

「ダメよ。それが昔からの伝統なのだから」

「で、伝統だぁ? …………そ、それで??」


 迷宮を知り尽くしたハルト。その自分でさえ知らない伝統に訝しむのと同時に、頬が緩まずにはいられない。


「私が封印される前にこんな格言があったわ――『迷宮を見事攻略した冒険者には報酬があって然るべき』とね」

「……今の俺の立場からすれば、随分と傍迷惑な格言に聞えるな」


 と言いつつも、その格言には全力賛成なハルトであった。


「私が目指すべきエンタメ迷宮は、その精神に則っているわけ。これは決定事項よ」

「へいへい。魔王様直々のご命令とあれば、従わない訳にはいかないな」

「それでこそ私の配下ね。ほら、ネモも……いつまでもくよくよしないの」


 ハルトがやる気を出したのを見て、クロエは未だに泣いているネモの頭を優しく撫で付ける。


「うっ、うぅ……」

「挑戦に失敗は付き物よ。あなたも私の仲間なら、失敗を引きずらないの……皆で、これからの対策を考えましょう」

「ずずっ…………お、おう。クロエ……あたし、もっと頑張るからな!」


 クロエの慰めの言葉に、ネモはようやく普段の元気を取り戻した。


(今回の負けは、俺の弱さにも原因がある。マジで対策を練らないとな。クロエの行く末を見届ける為にも…………)


 同じ様にクロエの言葉を受け止めたハルトも反省点を洗い出し、己の未熟を恥じていた。


「よし! ネモも復活したことだし、改めて対策を考えようぜ!」


 頬を叩き、ハルトは気合を入れ直す。


 残る本日の運営はネモも交えて、本格的に今後の対策を練ることにした。





初の防衛失敗。

力の無さを痛感するハルトだったが、それ以上の問題点が迷宮にはあった。

今後の対策は、どうするのが正解なのだろうか…………



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