エピローグ 初防衛の宴
またもや投稿が遅れてしまい、申し訳ございません!!
マジでなにやってんだお芋ぷりん!!です…………
初防衛後の共有スペースにて――
「グラスは持ったわね? それじゃあ、初防衛を祝して……乾杯!」
「「かんぱーいっ!」」
眼前に並ぶ面々の顔を見渡してから、クロエが音頭を取った。
初防衛成功のパーティーだ。
ハルトとネモがグラスを掲げてから、酒を喉に流し込んでいく。
「ぷはぁ~っ! 酒がこんなに美味いと思ったのは初めてだっ!」
「お、そうかそうか! なら、もっと勝利の美酒に酔いしれやがれっ!」
ハルトのグラスにたんまりと酒を注ぐネモ。
クロエはその光景をジッと見つめ、微笑ましげに頬を緩める。
「にしても、良かったのか? 俺達だけ飲み食いしちゃって……」
長椅子に座るハルトの眼前には、ガラス机の上に並べられた美味しそうな料理と酒の数々がある。
だが、クロエはそれらに一切手を付けないでいる。封印の影響で、食事を取ることもできないのだ。
「初防衛できたお祝いなのだから、気にせず食べなさい。私はあなた達の喜ぶ顔が見るだけで満足よ」
「ふーん」
慈愛深い笑顔を浮かべるクロエ。ハルトは、そんな彼女の口元をジト〜っと眺め、
「……なら、そのヨダレはなんなんでしょうねぇ」
「え? あっ!?」
指摘されて、クロエはようやく自分がヨダレを垂らしていたことに気付いた。
美食や美酒を味わいたい、という欲を隠しきれていない。
頬を紅潮させたクロエは取り繕うように口元を拭った。
「そ、それにしてもっ……よく、あれだけの戦力と罠で防衛できたわね……!」
「迷宮の趣旨に反する出来だったけどな。次はどうなることやら……」
此度の防衛戦を振り返り、ハルトは苦い顔をしながら口に酒を含む。
「いいえ、初めてにしては合格点よ。本当にお疲れ様」
「ありがと。でも、次はもっと工夫しないとなぁ……」
迷宮の主であるクロエに褒められても驕らず、既に次の防衛戦のことを考え始めるハルト。
その姿勢は本来なら褒められるべきものだ。しかし、今は祝いの席。
それを理解してか、クロエは大袈裟に肩を竦めて言った。
「そうね。毎度、あんな汚い手口を使う訳にもいかないものねぇ……ハルベルト、いえ――クズベルトさん?」
「上げてすぐ落とすのやめろや!? 俺なりに頑張ったんだぞぉ!?」
「ハハハハッ! そうだなっ、『実力の差が、あまりにも大きすぎる!!』ってヘタレてた割には、よくやったぜ……!」
ケラケラと笑いながら、ネモがハルトの肩に腕を回した。
「しかも、媚薬入りの瓶を投げるんだもんなぁ! 本当は誰に使おうとしたんだぁ? このこのっ!」
「そりゃ勿論、ね――って、待て待て! なんで俺が瓶を投げたって知ってるんだ?」
まるでその場で直接見ていたかのような発言に、ハルトは頬を小突いてくるネモを押し退ける。
すると、ネモの代わりにクロエがある方向を指差した。
「私達は全て観ていたのよ。あの〝モニター〟でね」
「もにたー?」
壁に取り付けられている黒い箱。
ハルトはそれに見覚えこそあったが、その正体は未だに教えてもらえていない。
「あれも〈ボロモウケ商会〉の魔導具製品でね。迷宮内に仕掛けた〝魔眼カメラ〟という魔導具に映った光景を見ることができるらしいの」
「あれのおかげで、あたし達は共有スペースに居ながら、お前の〝超エリート戦士ぶり〟を観戦できてた訳だ」
「ま、魔界の技術スゲェ……」
人間界には無い技術に、ハルトは驚きを通り越して、もはや感心すらしていた。
「というかだなぁ、ハルト!」
「な、なんだよ。顔近いって……!」
唐突に、ネモがハルトの肩を叩き、爽やかに笑う。
「なんで自分を偽る必要があるんだよ? 弱いのは、何も恥じゃないんだぜ!」
「人間より強い魔族に言われても説得力ないんですけどっ!?」
そう言ってサムズアップしてくるネモの言葉は、ハルトの胸に何一つ響かなかった。
「でも、そうね。私も気になるわ。何故あなたは、普段から〝超エリート〟と自称するのか」
「俺のことはとっくに調べてるだろうに……ま、隠す程の話でもないか」
ネモに続き、クロエにも尋ねられ、ハルトは大きく一息吐いてから語り始めた。
「俺には、迷宮好きで冒険者の両親が居てな。子供の頃から、色んな迷宮に連れ回されて育った」
ハルトの手にあるグラスの中で、琥珀色の液体が穏やかに揺れる。
「おかげで迷宮には詳しくなった訳だが、俺は弱いままだったっ……父さん達の遺伝子を何一つ受け継いじゃない。それが、堪らなく悔しかったっ……」
水面に広がる波紋の中心に映る、苦虫を嚙み潰したような表情。
その情けない素顔を取り消すように、ハルトはグラスの酒を一息に嚥下した。
「でも、ある時気付いたんだ――無いものねだりをしてもしょうがないってな。だから俺は、自分に言い聞かせて努力することにした。〝俺は凄い冒険者だから大丈夫〟だってな。まぁ、結果はご覧の有り様だけど」
酒に酔って判断力が欠如しているのか。それとも、自分への苛立ち故にか。
心の奥底に眠る気持ちを、まるで舌が踊るように吐露していた。
「それで、『超エリート冒険者』かぁ……自己主張が激しいのには理由があったんだな」
「己の弱さを知ってもなお、努力し続ける姿勢……素晴らしい心意気よ、ハルト」
ハルトの話を聞き終えて、しみじみと頷くネモとクロエ。
理解してくれた二人の優しさに若干のむず痒さを感じつつ、ハルトは頬を掻く。
「俺には、迷宮での経験しかないからな。これくらい当たり前だ」
「謙遜しないの。あなたは私が見出した人間なのよ? もっと胸を張りなさい」
目元に微笑みを浮かべ、クロエが子供をあやすようにハルトの頭を撫で始める。
「ちょ、やめろって恥ずかしい! 俺、子供じゃないんですけど!」
撫でられて感じるむず痒さに、ハルトはやんわりとクロエの手を払い除けた。
その直後、ハルトの予想だにしない爆弾が投下されることになった。
「私にとっては子供同然よ、ねぇ?」
「そうだなぁ。あたし達魔族はハルトの十倍以上は生きてるしなぁ」
「くっ、そういやそうだ! 二人は五百年近く生きてる魔族だったっ……!!」
魔族は人間と違い、寿命が長く老化も遅い。
そうとは知っていても、ハルトは彼女達の外見と実年齢を比較せずにはいられない。
(魔族の歳を人間的に換算したら、どの辺までなら若いんだろう……? まさかの合法ロリだったりして――)
「ねぇハルト、何か言いたいことでもあるのかしら?」
「べっ、別に何もっ?」
「遠慮なく言っていいのよ」
「いや、単に二人とも美人だなぁって……! あっ、あははっ」
そんな思考を読まれたのか、クロエが眩いばかりに笑顔をハルトに向ける。
けれど、彼女の目元は笑っていない。ハルトは乾いた笑みを張りつけながら適当に誤魔化した。
「な、何はともあれ初防衛に成功したんだ。結構エモトロン集まったんじゃないか?」
「ん? 何を言っているの? まだ、目標の一割にも達してないわよ」
「はぇ?」
無理矢理話題転換したものの、クロエの口から告げられた言葉に、思わずハルトの顔が固まった。
今の話が信じられず、事実を確かめようとする。
「いやいや! ご冗談を~! …………ちなみに今回集めた量は?」
「ざぁんねぇーん! 三エモトロンでっす! 目標は百万エモトロンだぞぉ!」
「なっ……!?」
クロエの代わりにネモから教えられた、知りたくもない事実にハルトの顔が驚愕で歪む。
もはや放心状態に近い状態のハルトの肩に、ネモは再度腕を回す。
「ってことでぇ~! これからも一緒に、迷宮を盛り立てていこうぜぇぇ~! ハルトぉっ!」
「噓だろぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」
雇われてから初めて知ったエモトロンの収集目標に、ハルトは給金を半分にされた以上の絶望を味わうことになったのだった。
「『冒険者と迷宮創設者の知略が織り成すエンターテイメント』か――これはただの偶然、かしら……」
その直後、クロエが懐かしげに呟いたその言葉はハルトの絶叫に掻き消された――
これにて第1章は終了となります!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
第2章からは新キャラの登場や〈聖教会〉関連の話も出すので、楽しみにしておいてください!!
そろそろ『異能学園の斬滅者』の方も続きを書きたいので、次回の投稿は少し空けて、9/1とします。
▶︎追記(8/28)
『魔王様リバイブ!』の2章投稿は9/1を予定していましたが、コロナに罹ったため執筆自体を一旦中止とします。
再開日は未定とさせて頂きますが、快復したらその時にお知らせします。
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