第14話 翻弄される冒険者達
投稿がとても遅くなってしまい、申し訳ございません!
魔王様リバイブ! 再開です!!
「な、なんだぁ? これ……」
一人の男剣士は、とても困惑していた。
山の麓の洞窟――その入り口前に打ち立てられた、目新しい看板を見て。
そこには、大きな字でこう書かれていた――
★エンタメ迷宮へようこそ★
訪れる全ての冒険者様を歓迎致します。
なお、迷宮に挑戦するにあたり幾つか注意事項があります!
①迷宮の守護者は殺してはいけません。彼等も給金の為に頑張っています。
②財宝は有限です。他の冒険者の事も考え、欲張り過ぎないようにしましょう。
③罠や戦闘による怪我等で動けなくなった場合、一定時間後に救助いたします。決して抵抗しないように。治療費を(強制的に)頂く代わりに、最低限の治療を受けられます。
④ルールを守って、楽しく迷宮攻略!!
以上、四点を守ってエンタメ迷宮を存分に堪能しよう!
――迷宮創設者より――
そう、此処は〈祭魔山〉の枯れ迷宮――故に、男剣士は戸惑っていた。
明らかに人の手で立てられたであろう看板の存在に。
もっとも、その内容の方が彼には理解し難かったが。
「村のガキのいたずらかァ? いや、道中には魔物がいる。大人も強そうな奴はァ、居なかった。つーことは、だ……」
されど、その変化は男剣士の目的に大きな意味を持たせる。
「……どうやら、デタラメと決め付けるには早そうだなァ。この迷宮が活発化してるって噂はよォ」
「そうネ、看板の内容は意味不明だケド」
男剣士に同調して、彼の仲間である斥候の女が肩を竦める。
「それはともかくとして……リーダー、財宝がある可能性は高そうですな」
「あァ、行商人の護衛依頼を請けた甲斐があったぜ」
顎に手を当て、鎧戦士の男が冷静に結論を述べると、男剣士はニヤリと口端を上げた。
彼等冒険者が此処を訪れた目的――
それこそが、近頃噂になっている迷宮の調査であったのだ。
「でなきゃ、こんな辺鄙な場所まで来ねえしなァ」
「ですな」
彼等にとって、噂の真意はどうでもいい。噂が本当ならば、財宝を持ち帰る。
ただそれだけの為に彼等は護衛依頼を請け、この迷宮を訪れた。それも自主的にだ。冒険者ギルドや村の依頼による調査ではない。
「他の冒険者に先を越されてなければ良いのですが……」
「入れば判るわヨ。早く行きまショ?」
「ああ。財宝はオレらの物だぜ。行くぞ!」
そうして、冒険者の三人は勇み足で迷宮に踏み込んだ。
先頭に松明を持った女斥候、男剣士と鎧戦士の男が左右を固め、暗い通路をじりじりと進んでいく。
「――止まって!!」
通路の半分に差し掛かった地点で、唐突に女斥候が声を上げる。
その場で屈んだ彼女に、男剣士は尋ねた。
「どうした?」
「罠がある……それも最近設置された物ネ」
掘り起こされた跡を見つけた女斥候は通路の左右を見渡し、腰の短剣を抜く。
そして敢えて、罠の起動装置を切っ先で突くと、左の岩壁から矢が勢いよく飛び出す。
「こんな単純で分かり易い罠……引っ掛かる人がいるノ?」
「ハハッ。居たとしたら、ただのマヌケだろうよォ」
此度の調査は財宝目的だが、迷宮探索の楽しみがなかった訳ではない。
それ故、容易に見破れる罠に、彼等がガッカリしたのは言うまでもなかった。
三人は罠を軽々回避しながら進み――
「どうですか?」
「扉を開いて作動する罠は無いわネ。古そうだし」
通路奥にあった大扉を調べた女斥候が、尋ねてきた鎧戦士に結果を伝える。
「なら進むぞ。この先が本番だと良いんだが」
「アタシもそう思うワ。開けるわヨ――」
リーダーである男剣士の決断に従い、女斥候は恐る恐るドアを押し開く。
扉を開いた先で待ち受けていたのは、黒一色のエリアであった。
「…………灯りで見える範囲には何も無さそうネ」
女斥候は僅かだが夜目が効く。
それでも暗闇に完全に慣れていない今、松明が照らす僅かな範囲しか視認できずにいる。
「ですが、この暗闇です。何かが居る、もしくは罠がある可能性も否めません」
「んなもん、居たら居たでぶっ飛ばせばいい!」
「相変わらずの脳筋ネ、リーダーは」
鎧戦士の懸念をバッサリ切り捨てた男剣士に、女斥候は呆れつつも笑う。
「で、どうするノ? 壁沿いを歩く?」
「それでいこう」
リーダーの同意を得て、女斥候が入り口付近の壁に手を当てながら歩き出し――
「――ウィー!!」
不意に聞えた奇声の後、暗闇の中で何かが動いた。
「え? きゃ――!?」
女斥候は思わず足を止め――途端、松明を持つ手に強い衝撃が加わった。
「どうしたァ!?」
声を上げた男剣士の眼前で、松明が床に落下する。
そしてどこからか液体が降り注ぎ、松明の火は鎮火。たちまちに、視界が暗黒に支配されてしまう。
「な、なにも見えませんぞ!?」
「落ち着け! まずは全員俺に固まれェ!!」
鎧戦士の男が慌てふためく中、リーダーとして指示を出した男剣士は二人と背中合わせになろうとして――
「ひっ!? ――イヤァアアアアア!!?」
「ゲフゥッ!?」
右手に柔らかい感触を覚えた瞬間、男剣士の腹に凄まじい衝撃が走った。
エリア中央に向かって吹っ飛ばされ、男剣士は背中から床に落ち――
ザクッ!!
「――イッデェェェエエエエエエエエッ!!!?」
打ち据えた背中に、何故か鋭い痛みを覚えた。
情けなく絶叫しながらのたうち回り、その度に鋭利な何かが体に次々と突き刺さっていく。
「え、ゴメン! そこまで強く殴ったつもりハ!!?」
「ち、ちげえっ! なんか刺さってるッ、体に固くて鋭いなんかがァ!! アッ!!?」
「えぇっ!?」
「ひ、ひとまず灯りを点けろッ! いやマジで!!」
誰かに尻を触られたと思った女斥候は謝りつつ、鞄から予備の木の棒を取り出す。樹脂の染みた灯芯に火をつけ、暗闇を照らし出した。
「こ、これハっ……!」
「ま、マキビシですな。それも床と同じ色のものだ……」
女斥候が痛みの悲鳴が聞える方向を見ると、床には血だらけの男剣士と鋭利な三角錐の岩が転がっていた。
その岩こそ、〈ボロモウケ商会〉謹製の罠であった。
「味なことを! 早くリーダーの止血を……」
「テメェ等!? 結構冷静だなオイ!? くぅぅっ……!! 早くコレを抜けぇえええッゲホォゥッ!?」
仲間達の落ち着きぶりに喚き散らし、挙句咽る男剣士。
その姿は、まさに滑稽の一言である。罠を仕掛けた者にしてみれば、さぞ満足のいく成果と言えるだろう。
「……ゴメン、リーダー。いきなり殴ったりして…………」
「いや、こっちも悪かった」
マキビシを蹴散らした鎧戦士が辺りの警戒をする。
そんな中、女斥候は手早く男剣士の手当を済ませていく。
「にしても、意地の悪い罠でしたな……何があったのです?」
「ほら、変な奇声が聞えたでショ? その後に手を叩かれて……」
「何か居たってことかァ?」
男剣士の問いに、女斥候が頷きを返す。
「なら、先に進んでソイツをぶちのめそうぜェ」
「ええ。借りはキッチリ返すワ」
気を取り直した女斥候が周りを見渡し、前後左右の壁に扉を見つけた。
「四方の壁に扉があるわネ……後ろには最初の松明があるから、選択肢は実質三つだケド」
「なら右だ。オレの勘がそう言ってる」
「分かったワ。二人ともついて来て」
女斥候を先頭にして、三人はすり足歩行で右手に進み、扉に辿り着く。
最初と同様、女斥候が罠の存在を確かめたのちに扉を開いた。
ギィィ、と――扉の隙間から漏れる軋む音がエリア内で響く。
たったそれだけで、人の恐怖を煽るのには充分過ぎるほど。胸の鼓動が次第に強く大きくなっていくのを、彼等は自覚していた。
「……次は、ただの通路か?」
次のエリアは、一見してただの通路であった。
人三人しか通れない細い道で、突き当たりには曲がり角。それ以外に特筆すべき点と言えば、今度は灯りが存在することだろう。
「今度は灯りがあるな。本当におかしな迷宮だぜ、ここは」
「全くネ、慎重に行きまショ」
重心を軽く落とした女斥候がゆっくりと歩いていき、残る二人もそれに続く。
「ここまでは何もないわ……」
安全を確認にしたのち、女斥候が通路の角で左に進もうとして、
「――ネ?!」
彼女の右足が、床に沈んだ。
「大丈夫ですか!?」
否、それは奈落だった。
底が見えないほど深い大穴が、女斥候の足元に広がっていたのだ。
「え、ええ。危なかったワ……」
背筋が凍る感覚を覚えながら、女斥候が落ちかけた右足を戻す。
冒険では――更に言えば、迷宮での探索では小さな油断が命取りである。
この世の罠の種類は数多しと存在するが、その中でもこの奈落はまだ親切な部類といえる。
「次の扉まで、複数の穴があるわネ。大きく跳べば、楽々越えられそうだケド……」
「十中八九、罠ですな。跳んだ先の足場が崩れる王道パターンかと。それにこれを」
静かに頷いた鎧戦士は右の壁を指し示した。
「『この先、崩落する足場あり。注意されたし』ですと」
鎧戦士が壁に書かれていた文字を読み上げると、男剣士は手を叩いた。
「迷宮あるあるだなァ! だが、読めたぜ……この場の最適解がなァ!」
そう言い切り、ドヤ顔で後ろの壁ギリギリまで下がる男剣士。
女斥候と鎧戦士に呆れた視線を向けられる中、その場で軽快なステップを刻み始める。
「さっきの意地の悪い罠から察するに、これは冒険者の心理を突いた巧妙な罠っ!」
「いや、今そう言ったじゃン」
女斥候の鋭いツッコミを、男剣士は無視する。
「一見、次に崩れる足場があると見せかけてェっ……! 実はそんな事はない!!」
「流石にそれは苦しいのでは? ここは慎重に。なんでしたら、私が橋になりますし……」
「その警告を信じる訳じゃないが、つまりッ――」
鎧戦士の話も忠告の文面も全て無視し、男剣士は走り出した。
奈落の一歩手前に近付くと、そこで踏み切り跳躍。
「このエリアは、足場をリズムよく跳び越えるだけッ……!」
男剣士は奈落を軽々と跳び越えて次の足場に。
着地するや否や、連続で足場を飛び移っていき――
カチッ。
「それがオレの導き出した答――エッフ!!!?」
直後、天井の壁がドアの如く下へ開き、男剣士と激突した。
その体は、女斥候と鎧戦士の視界から途切れるように、慣性に従って奈落に落ちていった。
「「…………」」
しばし無言が続いた。
空しいほどあっさりとフラグ回収した、リーダーの浅はかさを目の当たりにして。
「――って、リーダーッ!?」
「ここに来て脱落者がっ!? リーダーッ! リーダァァァァッ!!」
少し遅れて、我に返った二人が慌てて安否を確認しに行く。
天井の罠は一度作動すれば終わりのようで、二人は安全に奈落に近付くことができた。
「た、たすへてくれぃ~」
奈落の下では、男剣士が小さな点となって水に浮かんでいた。
「よ、良かったワ……下に水があって」
「ですな。下に棘がある可能性もあった訳ですし」
「だから冷静に感想言ってんじゃねぇえええッ!! 早く助けろォ!?」
冒険者の心理を突いた罠。それは、非常に意地の悪いものだ。
相手を陥れる為に設置された巧妙な罠。その直後に罠の警告文があれば、人は誰しも「裏がある」と考える。
即ち――忠告は嘘であると。
だが、そちらに気を取られることこそ、もっとも危険な罠であったのだ。
冒険者ならば、冷静さを欠かず正しく罠を見抜けなければならない。そのことを、男剣士は理解できていなかった。
「クソッ! この迷宮の創設者は性格が歪んでやがるッ!!」
女斥候が下ろした丈夫な縄でよじ登った男剣士は、奈落から無事生還することに成功する。
しかし――
「いやいや、リーダーが注意不足なだけでショ?」
「全くですな。だから足場になろうと提案したのに」
「少しは真面目に心配しろや!?」
仲間の忌憚のない意見に、ずぶ濡れの男剣士は憤慨した。
「このオレに恥をかかせるなんて許せねェ! 噂の真意も財宝も、この際どうでもいい! あの看板を作った奴を見つけて、ぜってぇぶっ殺してやるッ!!!!」
彼等は――否、リーダーの男剣士はどこか油断し舐め腐っていたのだ、このエンタメ迷宮を。
所詮は噂。探索され尽くした迷宮が今更活発化したところで特に問題はないのだと。
しかし、これまでの罠のおかげで、その緩んだ認識はたった今締め直された。
「行くぞォ!!」
仲間二人と共に奈落を全て飛び越え、男剣士は遂に重厚な扉へと辿り着く。
その扉を両手で開け放つと、広々とした明るい空間が視界を埋め尽くした。
「――フッ、ようやく来たか」
その中心で腕を組んで立つ者が一人。
暗黒戦士風の男が、彼等三人を待ち構えていた。
今の迷宮の資金状況で、冒険者を陥れる罠を考えるのって結構難しかったです、ハイ。
それと、ハルトは罠を三つ買いましたが、入り口の矢の罠は違います。彼等が通らなかっただけで、マキビシエリアの左扉の先にありました(泣)
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