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プロローグ 魔王との邂逅

※プロローグから5話までを全面改稿しました。初めての方も、以前読んだ方も、ぜひ最初からお楽しみください。

※復活します! 最新話の投稿は4/23に行う予定です!

 




「――ぶぇっくし!」


 派手なくしゃみの衝撃が、ぼやけていた意識を引き戻した。


「んあ……? なんだ、ここ?」


 瞼を開けると、そこは薄暗い石造りの空間だった。湿った空気が肌を撫で、背筋にぞわりと寒気が走る。


 そして、遅れて気付く――


 四肢が何かに縛られ、椅子に固定されているという異常事態に。


「え、何これ!? 俺、迷宮でなんかやらかしたっけ!?」


 首だけ動かし、慌てて辺りを見回す。


 左右の壁には、二つの松明が等間隔で掛けられていた。炎のゆらめきが影を踊らせ、広間全体を不気味な静寂で包み込んでいる。


(この配置、床の作り……なんか見覚えあるな。依頼で潜ったあの迷宮と似てるような……)


 そんなことを考えていた、その時――


「っ……」


 気配を感じた。


 〝誰か〟の、視線。


 否応なく、震え上がるような威圧感が全身を駆け巡る。


 正面――薄暗がりの奥に目を凝らすと、徐々にその輪郭が浮かび上がる。


 石を削って造られた無骨な玉座。そこに、一人の少女が腰掛けていた。


 純白の髪を後ろで束ね、側頭部には二本の角。無垢とも冷酷とも取れる蒼い瞳が、じっとこちらを見つめている。


 それと目が合った瞬間、胸の奥がズキリと疼いた。


 痛みではない。懐かしさのような、説明のつかない温もり。


(……なんだ、これ。胸の奥が、妙に騒がしい)


 理由のない感情に、青年は酷く戸惑った。


「お、お前……誰だよ」


 沈黙に耐え切れず、問い掛ける。


 すると、少女はふわりと微笑んだ。


「あなたは、どう思うの? ――冒険者ハルト」

「っ!?」


 名を呼ばれた瞬間、肩がびくりと跳ね、鼓動が胸を突き上げた。


(な、なんで俺の名前を……?)


 混乱する青年――ハルトをよそに、少女は静かに続ける。


「当ててみて。私が誰なのかを」


 彼女が持つ角、それは魔族の証。そこに目をやりながら、ハルトは小さく呟いた。


「……魔族に、知り合いなんか居ない」

「そう……なら、教えてあげるわ」


 少女は薄い胸元に手を当て、静かに名乗る。


「私はクロエ。あなた達人間からは――〈残虐の魔王〉と呼ばれている者よ」

「なっ……!!?」


 その名を耳にした瞬間、ハルト頭は真っ白になった。


 体中の毛が逆立ち、背中に怖気が走る。


 約五百年前。王国を壊滅寸前にまで追い込み、数え切れぬ命を奪った破壊と恐怖の象徴。今や御伽噺で語られるだけの、封印された伝説の魔王。


「う、嘘を吐くなっ!!」


 声が震えた。怒りではない。ただ、そうでも言わなければ、頭がどうにかなってしまいそうだったのだ。


「嘘?」

「だ、だってそうだろ! 〈残虐の魔王〉は、五百年も前に封印された筈だ! 勇者と……〈聖教会(せいきょうかい)〉の教皇によってな!」


 そう吐き出しながら、心の奥底では強い疑念が育ちつつあった。


 目の前の少女が放つ存在感、明らかに只者ではない。


(まさか、本当にそうなのか? だとしたら、なんで――)


 〈残虐の魔王〉を名乗った少女――クロエは少し目尻を下げ、静かに溜息を吐いた。


「……確かに、私は封印されたわ。そして、今も(なお)、ね」

「…………は?」


 頭が混乱する。ハルトは言葉の意味がすぐに理解できなかった。


「どういう……意味だ?」


 現実か夢か、精神干渉系の魔法なのか。疑念がぐるぐると巡る。


 そんな中、ふと違和感に気付く。


「……あれ? 魔王って、たしか御伽噺じゃ〝筋肉ダルマの男〟だったような……?」

「…………誰よ、それ」


 心底呆れ果てたように、クロエが眉をひそめた。


 その姿は、語り継がれてきた〝魔王像〟とは似ても似つかなかった。性別も、容姿も、その雰囲気すらも。


「そ、そうか分かったぞ! さてはお前、偽物だな! この俺を騙そうなんて百年早いわ、バカめ!!」


 ハルトが抱く、彼女への恐怖心が揺らいでしまうのは無理のないことだった。


「……別にあなたが信じようと信じまいと、そんなことはどうでも良いの」


 ハルトの変わり身の速さにクロエは一瞬呆れたものの、すぐに泰然とした笑みを取り戻す。


 そして艶かしく足を組むと、ハルトに向けて優雅に手を差し出す。


「私が望むのはただ一つ。ハルト……()が配下となり、この私を復活させなさい」

「は? 普通に嫌だけど?」

「そう言うと思ったわ。早速、あなたに仕事を与えましょう。まずは……」


 そこまで淀みなく口にして、ふとクロエの動きが止まった。


「……え、嫌なの?」

「うん」


 端正な顔を引き攣らせるクロエに、ハルトは淡々と頷く。


 断られるとは微塵も思っていなかったらしい。ハルトには、揺れた髪が彼女の動揺を隠せていないようにも見えた。


「どうしてか、理由を聞かせてくれる?」

「…………そんなことも解らないのかっ」


 不思議そうに尋ねてくるクロエを、ハルトは忌々しげに睨み付けた。


 未だ胸に巣くっている微かな恐怖を押し退け、別の感情がすぐさま沸き上がる。


「俺を緊縛してる魔族の話なんか、聞く訳ないだろうがっ! 信用できるかぁっ!!」


 魔王の誘いを断った理由は単純明快。


 ハルトは全く理解できていなかったのだ。何故このような場所で椅子に座らされ、縄で四肢を縛られていたのかを。


(なんで俺がこんな目にっ……俺はただ、いつも通り依頼を受けて、楽しい楽しい迷宮探索に来ただけなのに――)


 胸中で吐き捨てるようにぼやきながら、ハルトは二日前から今に至るまでの出来事を、思い返していた。



 ◆◇◆



 ――それは、遠方での迷宮探索を終え、王都に帰還した日の夜のことだった。宿の部屋に荷物を下ろしたハルトに、彼は言った。


「ハルト。俺達のサポートしか出来ないオマエは……クビだ」

「…………は?」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。ハルトの頭の中で、仲間の言葉が反響するように繰り返される。


「聞えなかったか? クビだと言ったんだ」


 パーティリーダーである守護戦士(ガーディアン)のボーマンが、再度冷たく言い放つ。


 その一言で、つい数時間前まで味わっていた迷宮探索の余韻は全て消し飛んだ。


 まるで、真冬の川に突き落とされたかのような悪寒が、全身を駆け抜ける。


「な……なんでだよっ!? 俺達、今まで楽しくやってきただろ! 今日だって、神代の迷宮を一緒に探索(堪能)してきたじゃんか!!」


 ハルトの声が裏返る。怒りと、理解の追いつかなさに。それでも頭の片隅では、これが何かの冗談だと信じたかった。


「行く手を阻む罠、宝物庫に至る謎解き……」


 その声は次第に熱を帯びていく。


「創設者の知恵を乗り越えるのは、最高だっただろっ!?」


 パーティとして苦楽を共にした時間は、実に三年。


 諍いが無かった訳ではない。だが、それでもハルトにとってボーマンは、本音をぶつけ合える良き友であり、頼れる仲間だった。


 故に、その唐突な宣告は、悲しみと共に深い痛みを心にもたらしていた。


「もう一度、ハッキリと言ってやる――オマエはこのパーティに必要ない」

「いや嘘吐けッ!? 俺のサポートがなきゃ、安心して探索できない癖に!」


 ボーマンは冷徹に断言する。しかし、ハルトの目には、その言葉が虚勢に見えて仕方がなかった。


「……罠の対処法は既に覚えた」


 そう言いながら、ボーマンは僅かに視線を逸らす。


「それに、戦闘で役に立たないオマエを置いておくメリットが今更どこにある?」

「っ……はぁ!?」


 その言葉に、ハルトの苛立ちはますます募っていく。


 だが、迷宮探索以外では役立たず、というのもまた事実。怒りの根本たる原因は他にあった。


「パーティ結成の時に納得してくれたろ!? 俺の迷宮探索の知識と経験で、お前達を支えるって! 前に行った神代の迷宮だって、俺がいなきゃ今頃――!」


 ボーマンの胸ぐらに手を掛けた、その時だった。


「くどい!」

「っ!?」


 ドン、と突き飛ばされ、ハルトは尻餅を打つ。


 見下ろすボーマンの目は、氷のように冷たかった。


「なんでだよ……嫌だぞ、俺はまだ! お前等と……!」

「ギルドにも話を通してある。お前は今日限りでパーティを外れる。もはや仲間ですらない。諦めろ」


 強引で、一方的な断絶。


 これ以上、(かたく)なな彼を説得することは不可能だろう。


 縋るような気持ちで、ハルトは沈黙していたもう一人の仲間に言葉を投げた。ずっと目を伏せ、一言も発してなかった彼女に。


「な、なあ……レシアからもなんとか言ってくれよ? 俺達、恋人だろ?」


 レシア。知識も技量も一級の魔法使い。


 それでいて、誰よりもハルトを頼りにしてくれていた恋人。


 きっと、彼女だけは味方してくれる。ハルトは、そう信じていた。


「……ごめん、ハルト。私達はもう……終わりなのよ」


 震えと、僅かな〝決意〟のようなものが滲んだ声だった。だが、いつもの凛とした声色はどこにもない。


 視線は足元に落ち、手は無意識に腕を握り締めていた。


「ぁ……」


 崩れ落ちそうな心を、辛うじて支えていた最後の支柱が砕ける音がした。全身から力が抜け落ち、心まで凍りついていくようだった。


 紛れもない拒絶の意思。


 ――ただ、その態度には、どこか無理をしているような、そんな違和感があった。


(……いま、何が起きてるんだ。ほんの数時間前まで、いつも通りだったのに……なんでなんだ、レシア――)


 しかし、あまりにも唐突な出来事に、ハルトの思考はそこまで辿り着けなかった。


「……さよなら、ハルト」


 レシアはそっと踵を返す。


 その後ろ姿が、ハルトの目には一瞬だけ小刻みに揺れたように見えた。


 唇を堅く噛み締め、レシアが足早に部屋を去っていく。彼女の頬に伝う何かが光ったような気がしたが、それも錯覚だったのかもしれない。


 ボーマンは一瞥すらくれず、不機嫌に鼻を鳴らして出ていった。


(迷宮が大好きなだけで弱い俺でも、仲間だって……同志だって言ってくれた、唯一の理解者だったのに……なんで――)


 ハルトの視界は滲み、目の前の現実が、まるで夢だったかのように遠のいていった。



 その後の記憶は曖昧だった。


 何を考え、どこをどう歩いたのか。気付けば、王都の場末の酒場で安酒を(あお)っていた。


「……チクショウ、俺が何したってんだよぉ……っ」


 泣きながらジョッキを空けては不満を口にし、再び注がれる酒に口をつける。


「……追放なんて、物語だけの話だろ……!? 何が、パーティに必要ない、だっ! 迷宮探索じゃ、俺におんぶにだっこだったくせにっ……!!」


 不満を吐き出したところで、気持ちが晴れるわけでもない。


 現実は、無情に選択肢を突き付けてくる。


 ――このまま冒険者を続けるか、それとも廃業して田舎で畑を耕すか。


「…………はぁぁぁっ」


 今後の身の振り方を考えると、自然と溜息が漏れた。


「……明日、ギルドで依頼探そう。稼がないと、迷宮に行けなくなっちまう」


 結局、ハルトは冒険者として生きる道を選ぶしかなかった。


 帰る家も、実家もない。両親は各地を旅する冒険者で、ハルトが成人すると同時に持ち家を売り払い、世界中を自由に飛び回っている。


「でもまぁ……なんとかなるか――」


 いつだって自己責任、それが冒険者というものだ。


 ギルドや個人の依頼を請けて、こなし、報酬を得る。


 薬草の採取から魔物討伐、迷宮探索に至るまで、仕事は多岐に渡るが――最後にものを言うのは、結局のところ自分自身の力だ。


 成功も失敗も、全ては自分の責任。生きるのも死ぬも自由。それが冒険者という生き方の、最も残酷で、かつ魅力的な本質である。


「今までだってそうだったんだ」


 ハルトは自分の手を見下ろす。


 無数の傷痕が残る手のひら――けれど、その一つ一つが、数々の迷宮を突破してきた確かな証だった。


「……俺は超エリート冒険者――そう、俺はできる男だっ!」


 鼓舞するように拳を握り締める。


 今も昔も、そうやってハルトは困難に立ち向かう自分を奮い立たせてきたのだった。





追放テンプレから始まるっ!


面白いと思って頂けるような話を投稿していくつもりなので、楽しんでいただけると幸いです。続きを所望するッという方は、ブックマークや評◯などで応援して頂ければ――感涙した私がもっと頑張ります!


※ネット小説大賞運営チームから感想をいただきました!

※2025/04/16に大幅な改稿を行いました。

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