病み上がり
風邪が治ったころには、その日から三日も月日が経っていた。
この三日間の間でも筆を何度か握ったが、椅子に座ろうものならとてつもない倦怠感で、一本の線を描く度に、床にへばりついた。
一日、数時間も眺めている天井の木目にも飽きた頃、やっと高熱から体が解放されたのだ。
平熱に戻ったのを確認した朝には、安心や喜びよりも私は自分の免疫力を恨んだ。
昔から体の強い方ではなかったが、ここまでの高熱は高校生の頃以来だ。
三日も筆もまともに握れず、人ともまともに会話していない
だが、人間とは本当に欲深い生き物で、三日も休めば自ずと外に出るのが億劫になる。
だが、さすがにこれ以上休むことは、罪悪感が芽生える。
私は、思い切って布団をはがし、洗面所へと急いだ。
鏡に映っていたのは、髪の毛がまるで漂うわかめのように寝癖がくっきりとついていた。
髭も顎や鼻下にもまばらに生えており、そんなみすぼらしい男子大学生の姿にため息をついた。
風呂に入り、髭を剃ってから、大学へと出かけようとしたところで、松山から電話が入った。
「どうだ?復活したか?」
松山は開口一番にそう言葉を発した。
「ああ、お陰様で。」
私がそういうと、松山は嬉しそうに鼻を鳴らした。
「まあ、ここ三日間にも及ぶお前の欠席連絡は全部俺だったんだからな。なんか奢れよ。」
「もちろんそのつもりだったが、お前から言われるとなんか鼻につくな。」
「そう言わずになんかないのか?焼肉じゃなくても喫茶店とかさ。」
「そもそも焼肉が前提であることが、苦学生を馬鹿にしている。そうだな…喫茶店か。」
私は脳内にあの喫茶店が頭に浮かんだ。
氷とタオルを返しに行かなくてはいけないのもあるが、あんなに情けない姿を見せた後では直接会ってお礼を言うのは気恥ずかしいところがある。
「松山、最近行った喫茶店があるんだが、熱が出た時にそこの店員さんに世話になったから、お礼がてらに行こうと思ってて、そこでもいいか?」
松山は、「お、いいな。」とすぐに返答を返してくれた。
「じゃあ、そこで。今日って、松山も三限までだろうどうせ。」
「よくわかったな。」取りに
「松山も来年は少しくらい自分で考えて、講義入れろよ。」
「えー、そんなケチ臭いこと言うなよ。」
私が深くため息を吐くと、松山は、「まあまあ。じゃ、決まりな。」
彼はそういって、電話を切った。
携帯画面を見ると、時刻は、十時を過ぎていた。
今日は二限から講義が入っているため、そろそろ出る時間だ。
私は、氷とタオルを持っていないことに気づき、急いで部屋に戻り、それらを掴むとすぐに外へと飛び出した。
三日間も家の冷房に当てられていると外の暑さはすっかり忘れていて、体から一気に汗が噴き出した。
一歩二歩と歩いているうちに、体力が太陽に熱された地面に吸い込まれるような気がしてくる。
額から頬に流れてくる汗を拭いながら、私は大学へと向かうため、駅へと急いだ。