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第一章 その一

「さて、と!私お昼食べてくるわ」


 ぽん、と膝に手を当てた流生は座椅子から立ち上がる。お腹が空いてきたのだ。


「まだ食べてなかったのか」


 彼氏が流生の方を見る。


(聡雅の目って、いつも醒めてて重そうな瞼をしてるのに、妙にぱっちりしてるのよねえ…なんでかしら。目がおっきいのかな)


 そんな事を考えながら、彼女の口は別の事を話す。


「さっきまで委員会活動してたのよ、そのままここに来たの」

「よくまぁそんな面倒くさい事を…」


 ふふふ、と流生は笑う。


「偉いでしょ?」

「コメントしずれーな、それはどっちの意味だよ」

「どっちの意味でもよ」


 聡雅は宙に視線を漂わせて思案する。こういうどうでもいい事を真面目に考える男なのだ。


「芽を見に来るのは別に偉くないが…委員会活動はご苦労なことです」

「でしょ。誰も評価してくんないのよー」


 何かと役割に引っ張られる彼女が欠かさず来れる時間帯は、お昼休みぐらいしかないのだった。


「それはしょうがない。やってみなきゃ実感できねえ辛さもあるんだろーし」

「そうよねぇ」


 こういう小さな同意を彼女は楽しんでいた。 


「そいじゃね」

「おう」


「放課後よろしくね」

「ああ」


 どこか聡雅の返事が遠い。


(大丈夫かなぁ…大丈夫よね)


 それはいつもの事だったし、そもそも「大丈夫なのか」なんて自分が言えた科白ではないと思い出し、彼女は図書室を後にした。








「さて、と」


 そうアタシは呟き、新校舎への渡り廊下へと足を進める。

 彼氏の事はよく分からないが、しかし自分よりはよっぽどしっかりしているだろうと思う。よくは分からないが、なんだかそういう信用のおける男なのだ、聡雅は。


(いつからこんな関係になったんだろ?)


 アタシはいつも不思議だ。そんな風に「大丈夫よね」なんて言って他人に何かを任せられる事なんて今までほとんど無かったような気がする。いつだって自分は最後になって何か尻拭いをしなきゃいけなくて、その事で神経を尖らせているような気分だったような―――…。

 そんな事をぼんやり考えながら教室に戻ると、視界に女の子が飛び出てくる。


「あ、流生いたっ!どこ行ってたのよ、もー」


 副委員長をやってくれている子だ。


「やほ、ちょっとね」

「ご飯食べちゃうとこだったんだからね」

「ごめんごめん」


 この子もそうだ。

 彼女は副委員長をやってくれているが、アタシはどうにも肝心な所で彼女を信用していないのだと思う。


「ねえ、最近忙しいの?」

「うん?そりゃあ委員長ですからねえ…」

「そうじゃなくって、ほかに何か用事でもあるんじゃないの?」

「え、用事って?」


 だからわたしは、聡雅に対するように彼女に“種”のことを打ち明けられない。

 理由なんてない。ただ何となく、言えないのだ。


(ううん、違うわ)


 言えないのではない。言わないのだ。


「委員の仕事だけで手ぇいっぱいで、やってらんないわよそんないろいろと」

「ふうん?ま、いいけどさ。ホラこれ!」

「うおおぉ、ありがとぉおおお」


 でも副委員長をやってくれている彼女が悪いわけではない。彼女はこうやっていつも私の事をフォローしてくれている―――いまだって自分ではとても出来そうになかった体育祭アンケート調査を綺麗にまとめておいてくれている。彼女の事は大好きだ。アタシは多分、この子がいないと生きていけない。


「涙出てきたぁ」

「おおげさ!」


 二人して笑ってしまう。きっと彼女がいるから、まだ委員長を続けていられるのだ。


「じゃあデータはあたしがそろえておいたからね!」

「うん、報告書は書くよ!」

「頑張れっそしてはやくお弁当食べてしまえっ」


 ぼーっとしてまったく箸が進んでいなかった事にようやくアタシは気付いた。

 そして別の事実に気付く。


「へへへ」


 照れ隠しで笑う。


「あ、まさか」


 流石に彼女は機転が利く女性なだけあって、すぐに感づいたようだ。


「また箸忘れたのね!」

「ごめんなしゃい」

「あーもう、ホラちょっと待っててね」


 彼女は自分の箸を持って水道の方へと歩いていく。別に洗わなくてもいいのに、と思ったけれど、彼女はそういうところできっちりしている人なのだ。


「あ…」


 その彼女の歩みが、窓の所で止まる。

 アタシは不思議に思って彼女の傍に寄ってみた。


「どうしたの?」

「ね、ねえ、あれってうちのクラスの聡雅君よね。それで、隣のあの人は…」


 彼女が指し示す先で、旧校舎の方に歩いていく彼氏の姿をアタシは見た。

 その彼氏の前に、別の女の子がいて、まるで彼氏はその子についていくようで―――…。


「もしかして告白なのかな!?かな!?」


 なんだか少しときめいた顔をしだした彼女の前でアタシはただ曖昧に笑うしかなかったのだが、その反面で鈍い痛みが胸に生じるのを押さえていたのだった。


にしきさんが、聡雅に告白…」

「なんかすっごい組み合わせ…でも二人とも“私生活が謎”よね!案外お似合いかもっ」


 そう、彼氏がたるそうについていくその相手は、この学園でも問題児と噂されている少女なのだった。純和風の容姿に病的なまでの白い肢体が、綺麗に切りそろえられた黒髪によってよく映えている。ルージュを引いているわけでもないのに赤い口唇。

 だがその口から飛び出すのはいつも奇天烈で、根っからの変人なのだった。


(彼氏のことだから、きっと最後まであの子の言葉に付き合うんでしょうね…)


 そのときのアタシは、校舎裏で起こることがなんだか容易に予想できたのだ。

一人称に挑戦してみたけど、むずいな…というかここで一人称にする必然性がない。

スペックさんみたいな文章書きてぇ

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