表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

序章 回想その五(終わり)

 日がだいぶ傾きかけてきていた。二人は旧校舎と新校舎の間にある、渡り橋の下の自転車置き場へと足を進めていた。


自転車オートサイクルなのか」


 聡雅が醒めた瞳で流生の姿を見ている。彼女は自転車のチェーンを外す。

 エンジンをかけると小さく排気孔が揺れる。


「家までね。自分で買ったのよ?」


 オート・サイクルにまたがると、にっこりと笑って手を差し出す。


「寮まで荷物持ってあげる、てか乗せてあげる」

「ホントに?大丈夫かよ…」


 何度目かの渋い顔をしながら聡雅が後部座席に乗る。乗りなれてないのか、しきりに身体を揺すっている。


「ちゃんと乗った?」

「おう」

「メットないけどいいよね」

「おい…」


 不満げな顔をしているのでゴーグルを外して渡してやる。


「何の意味があるんだよ」

「気分よ、気分」


 主にお前の気分だろ、という言葉を無視して、彼女はクラッチに力を入れる。

 聡雅がくぐもった悲鳴を上げた気がして、彼女は笑う。




 既に時刻は遅い。

 広大な学園の敷地の坂を、少女と少年を乗せたオート・サイクルが下っていった。

 同乗者はヘルメットなしだったが、どうせ敷地内ではその必要はないのだ。彼女は気にせずスピードを上げた。


「ねえ!あれはあたしとあんたの内緒だからね!」


 よく聞き取れなかったのか、聡雅が背後で声を上げる。

 だが風が強くて聞き取れない。


「あの部屋も、あの植木鉢も、あんたとあたしの内緒!」


 声を上げて彼女は笑う。もう彼氏の声はしなかった。

 バイパスへと一気に速度を上げて乗り込む。腰に回された手が強くなる。少し、痛い。

 その痛みが何故だかうれしくて、彼女はどんどんスピードを上げていった。




「今度俺が“二人乗り”のときのオート・サイクルの運転の仕方ってもんをきっちり教えてやる…」

「あんたも持ってんだ?なんで乗ってこないの」


 寮の前で降りると、聡雅は青い顔をしてふらふらと降りた。


「正確には“持ってた”だな。今はもう売っちまった」

「ふうん」


 曖昧に頷いてみせる彼女に手を振り、聡雅は寮の入り口へと進む。


「ねえ」


 ふっと沸き起こった感情に、彼女は少し戸惑って、それでもそれを素直に彼に伝えた。


「一緒にさ、育ててみない?」

「おう」


 あまりにも短い。あまりにも素早い。あまりにも呆気ない。


「うん」


 それでもどこかそれを聞いて、彼女は安堵していた。

 だからその二文字だけを聞いて、彼女はすぐにその場を立ち去る事ができた。

 それで、その後に彼が呟いた言葉を完全に聞き逃した。


「ぇ、何だって?」


 立ち尽くす少年の前で、白煙が虚しく揺れた。




ひとます序章終了です。

ルビとか適当です。いろいろ失敗もしてます。

ほんとすいません…現在一章書いてるので、出来次第投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ