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第二章 その十一


 場所は変わって、智也とトガメが立っていた公園へと場面はうつる。

 両者に緊迫感が流れているのを、誰も否定できない。

 あたりには既に乱闘の痕跡であふれており、ひっくりかえった鉄網製の円筒形ダストボックスが青いゴミ袋の中身を散乱させていた。


「お兄ちゃん、何故邪魔をするの」

「ボクが探してる人がキミと同じ人だからさ」


 人―――その表現が正しいのか、智也には分からない。

 先ほどこの幼女としか思えない少女から聞いた言葉が、真実であるとも到底考えにくい。

 それでもこのことはたしかだ―――五月姫会長は、魔女だ。

 そのことを、智也は知っていた。


(というより、その原因をボクが作った(・・・・・・)


 それが彼が呵責を感じるところであり、彼が背負うと決めた一つの信念。


「お兄ちゃん、普通の人じゃないんだね」

「そうだよ」


「隠してたの」

「まぁ、そういうことにはなるかな。でもそのことで謝る気にはなれないよね」


 何故ならそれは―――お互い様だからだ。

 刹那、リボン幼女と地味な少年の姿が掻き消える。

 閃光が走る。

 それは金属質同士がぶつかりあうときの独特の煌き。

 火花が散り、目が眩む。


「トガメちゃんって言ったよね。キミ、造形生命ホムンクルスなんだろう?」

「智也お兄ちゃん、普通の人間だよね―――でも、普通の人じゃない」


 先程とは矛盾するようなトガメの発言。

 智也は人間だが……―――普通の人間ではない。


「事情通の業界人なら誰でも知ってると思うけどね―――ボクは“ 戦争屋 ”なんだよ」


 “ 戦争屋 ”―――極東や北方などを中心とする第三世界では遠いどこかの話だが、今大陸では戦争が絶えない。

 近年これまでとは別種の戦争が勃発した(・・・・・・・・・・)こともあり、最近になってその存在が徐々に表世界にも浸透してきている。


 “ 木枯 ”―――その創始者は、旧世紀以前にまで遡る。

 まだ極東が『倭国』という単一民族国家であった頃。

 本来ならば戦前の遺産―――旧世紀の遺物・亡霊として片付けられるはずのものが、大陸で止まない紛争によって奇跡的に世紀を超えて生延びた。


 “ 戦争屋 ”は非常にポピュラーな言葉だ。

 というより極東地方のほとんど(・・・・)が“ 戦争屋 ”だ。

 定まった国家や政治・統治機関の存在しない第三世界―――つまり無法地帯。それが極東だからだ。

 そして言うなれば木枯は―――極東地方に存在する“ 戦争屋 ”の元締めだ。


「ちゃんと自己紹介したほうがいいみたいだな。ボクの名前は木枯 智也。木枯財閥の養子で、跡継ぎだ」

「木枯財閥、トガメ知ってる。倭国のマフィア」


「こっちじゃヤクザって言うんだけどね。まあ似たようなもんか―――いや、木枯はヤクザでもマフィアでもないよ。“ 戦争屋 ”だ。そこは間違えてほしくないね」


 地味な風貌の少年が、そのときだけは利発そうな青年に見えるのは状況シチュエーションによる印象の操作か。

 だが確かに、普段と異なるものがあるのも事実だ。

 そう、目だ。


 “ 人にはスイッチがあると思う ”―――聡雅にとってそれが流生と接しているときの自分とそれ以外の自分であるとすれば、智也にとってはそれは“ 日常 ”と“ 非日常 ”を分けるためのもの。

 その目―――ただひたすら黒いだけの地味で印象の薄い眼が、今だけは触れるだけで鋭い痛みが走りそうな鋭利な刃物のようだ。

 彼が見つめているのは、トガメが持つ得物―――ラケットだ。

 否、ラケットだと思っていた(・・・・・)

 実際輪郭はラケットそのものだったのだ。

 黒い外観のポリエステルに取っ手の部分から網目の部分にかけてベルトが取り付けられていれば、誰でも中身はラケットと考える。

 そして今も、彼女が握っているのはラケットケースの、柄の部分だ。


(―――光った)


 そう感じた瞬間、もうトガメが迫っている。

 一瞬、見えたものは残像。

 理解する前に、智也の腕が跳ね上がっている。

 恐らく捉えたのは一回ではないだろう―――それでもやはり、トガメの目が細くなる。


「ねえおにいちゃん。極東の人は―――みんな変な身体なの?」

「誰のことを言ってるのかはわからないけど、皆がみんなこうではないと思うよ」


 成功した―――変化しない表情のまま、智也は確認する。

 智也の二つの腕が、トガメの得物を押さえていた。


「キミだって、キミくらいの年の子がみんなこんな物騒な物持ってるとは思わないだろ?」




 “ お互い様(・・・・) ”―――だ。

 ラケット・ケースから完全に抜き放たれて全貌を現した、十歳前後の幼女が握った双刃・破砕仕様の戦斧(バトル・アックス)と、身体全体が武器(リベラル・アーツ)の智也の身体は、まさにどっちもどっち―――互いに常識の範疇を逸脱している。

 かたやトガメの持つ斧もまた歪―――明らかに全長は幼女の体長を優に超えて四倍。一体どのようにして小さなケースに収まっていたのか。

 トガメの得物には上下に付いた斬るためというよりも砕くためのような刃だけでなく、その中央には純粋に鈍器として用いられて然るべき“ 鉄槌 ”が存在する。そのひとつひとつにいちいち鋭利に設計された握りこぶしサイズのトゲが付いている。

 禍々しく歪んだ柄の部分に幼女の華奢な手が握られているが、明らかにサイズが合ってないので握れていない。

 それを閃光の速度で振り回す幼女もさながら―――それを受け止める智也の身体もまた身体だ。


「武器を使う君には悪いと思うけど、ボクは“武器そのもの”なんだ―――身体全体が武器(リベラル・アーツ)=《E-type:edge》って呼ばれてる。体中が刃物だと思ってくれて構わないよ。ちなみにこのedgeタイプはE世代と言って、一番新しい技術で生まれてる。旧式のBやCに代表される“カラクリ”とは完全に一線を画しているから―――ッ」

「ッ―――・・・それがどうしたの?」


 智也の台詞がトガメの戦斧アックスが叩きつけられる衝撃と、耳をつんざくように散らされた火花で掻き消される。


「別に。ただ、“ そこんとこ、よろしく ”って言いたいだけ」





 

やりたい放題だぜ。いや、最初からこういう流れになる予定だったんですけどね。

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