第一章 その十七
五月姫は特別な少女だ。
彼女だけが持つ、特有の感覚がある。
物事の“掴み”や方法を直感に従って把握することが出来る。
鮮烈なイメージが沸く―――想像力が強い上に、しかもそれが的を得ている。
人間は自分が指を巧みに使えるということをあまり意識しない。
それがデフォルトであるからだ。
あるいは触覚・味覚・視覚・聴覚、なによりも思考力や洞察力といった点で、地球上のあらゆる生物を凌駕している。
存在として―――破格。
そして異端。
だがそのことを意識する人間はほとんどいない。
多くは自身を平凡で矮小な存在と感じ、考えている。
五月姫にも同様の事が起きているといえる。
彼女にとってそれは普通の事。
デフォルト―――だが実はリソースの配置が他と異なる事を、彼女は気付かない。
ただ、なんとなしに他の人間と自分が違う事に気付きながら―――それはせいぜいが人間が犬や猫を見て微笑むような程度のものだが―――彼女は普通に生きている。
彼女はその“掴みが分かる”ときの感覚を、よくこう例える。
“自分の中で、誰かが囁いたような感触”
「大丈夫よ、流生さん。分かるから」
「え?え?」
(会長…なに言ってるの?)
流生には五月姫が何を言っているのかが分からない。
だが五月姫には自信がある。
(私は目の前の事態を何とかできる)
「分かるの―――わたし、やり方は分かるの」
むしろ微笑みすら彼女の口の端から漏れていく。
“そんなことは簡単だ”“お安い御用”―――跳び箱の授業で教師に見本を見せるように言われた生徒が「ふふん」と鼻を鳴らすような、その感覚。
自分が出来ることを知っているからこそ出るオーラが、今彼女の全身に力を流し込んでいく。