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かえるのお医者さん

トライアーマーに乗ったウォルプタと渗手、その前を歩くヴァンの三人は森を進む。


「そういえばヴァンさんって騎士なんですよね?どこに所属しているんですか?」

「所属か?特に無い。フリーの冒険者さ。だが爵位は我が祖国キャタニテの女王陛下から頂いたものだ!」


よほど誇らしいのだろう、胸元を親指で差しながら高らかに祖国の名を呼び上げる。


「(ちゃんとした騎士なんだ...)」

「ほんとに騎士なんだぁ...」

「そういう君たちは冒険者ではないんだろう?もし嫌でなければどうしてあんな所にいたのか聞かせてもらえないかな?」

「私はそのぅ...えーっと...ちょっと修行...みたいな」

「(いつもここにいないのにあんな大きな家を持ってるのか...?)俺は元の世界(モトカ)からこの...えっと?」


この世界は何というのか、渗手は知らない。ウォルプタが小さく耳打ちした。


「この世界はシュートって言うんだよぉ」

「そう、モトカからシュートに来たんです」

「ほう!モトカから来たのか!この町はクテノミスと言って...まぁ見た方が早いか!こういう町だ!」


いつの間にか森の端に到達し、目の前には町...いや村が見えていた。

木や石がメインの建材で出来ており、道もあまり整備されていない。しかし寂れているというわけではなく、小さいながらも農作物や牧畜が存在するようだ。人通りもまばらながら元気が無いわけでもなく、きっとそこまで発展しなくてもよかったという感じなのだろう。

今まで気にしていなかったが、よく見ればこの場所は山間部であり、結構険しい場所にある。秘境というほどではないが間違いなく田舎だ。


「「わ~~~」」

「ってなんでウォルプタさんも驚いてるんですか」

「いや私森から出たことないんだよね」

「どうやって生きてきたんですか...?」

「そこはほら、魔術師だし...」


明らかに隠し事がある。絶対に怪しい。いくら魔術師だからって今の時代()()()()()()()()()()()()。しかし突っ込めない。渗手は恩人の隠し事なら触れない気遣いくらいはある。ヴァンは騎士なので乙女の隠し事は暴かない。

しかし会話が止まってやや気まずい。静かなまま少し歩くと病院というか診療所に着いた。

電気が点いており、入り口は暖簾だ。中に入ると老年のハーフエルフ(およそ7500歳)がいた。なぜか肌が緑色だが、ハーフエルフでは他種族の特徴が出るのもそう珍しいことでは無い。


「アヌーラさん、今空いてるかな?」

「閉める扉がないねぇ...ん、骨折か。そこに座りなさい。」

「あ、失礼します」


とがった耳でしわくちゃの顔のエルフの医者に通されるまま、表面の皮がやや破れた丸椅子に座り問診が始まる。


「冒険者だね?いつ怪我したんだ?左上腕だけか?この辺だと...イノシシかな?」

「イノシシですね。冒険者っていうかモトカから来たんですけど、怪我は「異世界(モトカ)から?」


医者が態度を変えた。眠そうだった目を丸くして、丸眼鏡越しで小さく見える目がそれでも大きく開く。異常というよりへんなものを見たという反応だ。


「モトカ人ってのは、もっと脆いんだ。イノシシに攻撃されたら、まず死ぬ。この辺のは、冒険者だって死ぬ大きさだ。春だから子持ちだろうし、君は武術でもやってる、訳じゃないし、これは...うん...君、()()()()()()()()()()()()()()

「え?ありますけど...まさか、()()()()()()ですか?」

「え?どういうことなの?」

「君ヒトじゃないのに鈍いねぇ...異世界出身で、こんなに頑丈なはずがない。だからこいつは、()()()()()()()を持っただけ。この世界の人間だよ。」

「え?なんか...おかしくないかな?そんなことする理由がないっていうか」

「うん...ボクの経験から言わせてもらうと、そんな事するような奴は、指名手配犯なんだろう。多分、これについて知ろうとすると、面倒なことになる。」

「でも、真実を知りたいです」


エルフは沈痛なような不憫なような、そんな声色で語り掛けた。

だが渗手は即座に答えた。


「僕の中に大きな謎があって、それを放って置くなんて納得いきません」

「君が、ここに転移してきた所は、誰か見たのか?」

「それは...見てませんが」

「ならきっと、君は厄介なのに絡まれたんだ。元の記憶が無い、っていうのは不憫だ。でもそういうのを、治す医者もいる。だから、忘れなさい。」

「嫌です」


涙声などではなく、決意の籠った声。こういうのをエルフは聞いたことがある。


「(あぁ...君もそういうタイプか。止まれないんだな。若いからじゃなくて、そういう気質なんだな。そういうやつにどうするか...私は...)」


「そう言うなら、君、冒険者になりなさい。手続きは、そこの騎士が知ってるだろう。この村は、空き家も多い。ここはロープウェイがあるし、意外と住みやすい。ここで冒険者になろう。冒険者になって、そいつを、とっちめてやるんだ。」

「ここで?いやもうちょっと都会に」

「まぁまぁまぁ、失礼なことをいうもんじゃないぞ渗手くん。ここはホラ、アレだ、私も住みよい街だと思うなぁ~うん」


どう考えても冒険者向きじゃない拠点の提案に、明らかに適当な便乗をヴァンが言う。絶対に裏があるとしか思えないが、他の場所に行くにしても渗手とウォルプタは他の場所を知らない。


「そんなに言うなら...まぁ、ここに住みます」

「うん、うん、それが良い。何かあったら、私に聞いてほしい。君よりは詳しいよ。」


エルフはどこか安心したような、先ほどより和やかな表情だ。


「そうと決まったら家探しだな!どんな家がいい?」

「ボクの家の裏に、比較的きれいな家がある。そこがいいと思う。」

「いや家探しくらい自分で「そうか!じゃあもうそれでいいな!」

「(なんだ?これ怪しすぎないか?良くしてもらった以上あんまり無碍にもできないけど...変だぞ?)」

「(蚊帳の外だけど引きこもりだから何も言えないよぉ~)」

「じゃああとはそうだな、家具だな!家具屋に行ってきなさい、私はちょっとここで治療してから行くから!」

「家具もあるよ、あの家。」

「そ、そうか?ならアレだ、資格を取ろう!冒険者も職業だからな、手続きがあるんだ!市役所とかで受け付けてるから、な!行ってきなさい!聞けばわかるから!」

「(さっきと話違くないかこれ)わかりました、どこですか市役所は」

「あれだよ。」


エルフの指差した先は、役場というにはやや寂れたこれまた石と木でできた建物。屋根は枯草のようなもので出来ているし、ガラスも嵌め殺しで開閉などできそうにない。


「あれかぁ.......」


どう考えてもショボい。遠い目をしながら渗手は思った。リニアモーターが通るような世界なのに文化レベルが絶対に低すぎるぞ。マジで大丈夫かこれ。でも強そうな冒険者(ヴァンデミエール)も勧めてくるし良いのだろう。そうだそうに違いない。

元より身一つで来た以上選択肢もほとんど無いので、無理やり納得して流れに乗ることにして渗手 (とついでにウォルプタも)役所に向かった。


「あれ?そういえば怪我は?」

「あ、治ってますね」

「いつの間にぃ!?」


──────────

「...で、今度は自分が帰る場所ってか?濡鉄(じゅてつ)のリークエ」


ヴァンは椅子に座り、横にあるアヌーラの机に肘をついて話しかける。


「なんだ、知ってたのか。」

「あんたのその見た目、あと昨日ここに寄った時聞いた苗字。アヌーラ(カエル)って、あんたの昔のあだ名だろ?いつも薬品で湿ってて、緑の肌をしてる。なんで偽名なんて名乗ってこんな所にいるんだ?」

「若いのに、よく知ってるな。どこで、調べた?」

「話を逸らすなよ。冒険者が怪我で隠居ってだけならなんにも不思議じゃない。だが...名前を隠して、さらに渗手に冒険者を勧めて。あんたがすぐ息切れするのは冒険の後遺症だろ?」

「私は...私も、昔は、ああいう性格だった。きっと彼も、何があっても、気になったら、止まれない。だから、勧めただけさ。」

「......へぇ?じゃああの家に住ませたのは?あんたの娘は」

「彼を、()()()()()()に住ませたのは...ただ、気軽に譲れる、モノだったから。深い意味なんて、ないよ。」

「餞別とは、あの濡鉄がずいぶんと丸くなったようだな。ま、あんたの現役時代を俺は知らないんだが」


これ以上聞き出せる様子ではない、そう判断して、ヴァンは席を立った。


「話す気になったら話してくれ。俺もしばらくここの民宿に泊まらせてもらうからさ」

「......」


「さて、ひよっこ冒険者に先輩がいっちょ指南してやるとするか!」


わざとらしい独り言を言いながら離れていくヴァンの背中から、リークエは目を逸らした。

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