段々畑っていいよね
「つ...ついたぁ~~~」
「無事に着いたネ!」
「車の後ろ半分が超有事なんですよ」
「大した怪我もしてないし良いじゃないか」
「ふっ、よくある」
「「よくある!?」」
引きこもりと異世界人にはあまりにデスロードだったが、無事目的地に着いた。
「ここは何て言う町なんですか?」
「ノルドテラッツェだな。棚田が特徴の村だ」
「棚田なんて探せばいくらでもありそうですよね」
「あるぞ。特徴ってだけで観光名所じゃないんだ」
「じゃあ何があるのぉ?」
「ないよ」
「何も……?」
「ないよ。私は友達に用があるんだけどね」
「日没までには合流しろよ〜」
「ん」
クッカは別行動、運転手は留守番。
というわけで、いつもの三人で車を停めたところから少し歩いてある家に着いた。
大きすぎず小さすぎず、小さな庭の付いた一軒家。
平穏という言葉が似合う家だ。
「ごめんください」
「はぁい」
ヴァンが声をかけると、中から老婦人が出てきた。
普通の人間。60代前半くらいだろうか。
「私バシネット騎士団という所に所属していまして」
「はい」
「ご子息のカミュさんについて、行方などご存知でしょうか」
「あぁ、カミュのお知り合いですか?どうぞ上がってください」
客に茶を出すのに躊躇が無い。
のどかな村に似合う、大らかな気質のようだ。
「あの子は…よくわからなくて」
「よくわからない、とは?」
茶を淹れながら、母親は寂しそうに話す。
「部屋に篭りがちで、いつも難しい本を読んでいたんです。
兄が優秀だから追いつこうとしているのだと、思っていたんですが…」
「その本、見せていただくことは可能ですか?」
「え?ええ、持ってきますね」
「いえ、私たちで部屋を探しますのでお構いなく」
「いえ、勝手に入れるのはちょっと」
「問題があるんですか?」
「私の部屋じゃありませんから、勝手に人を入れるのはちょっと……」
「確かに…」
「何冊か持ってきますね。お菓子も足りなかったら棚に入ってますからどうぞ」
そう言って、彼女は二階へと上がっていった。
「もぐもぐ…いい人だねぇ」
「ですねぇ」
煎餅の個包装を剥きながら茶を啜る。
現代日本にしか見えない光景だが、味の違和感がまだ帰れていないことを示している。
「ヴァンさんはここに何があると思いますか?」
「機械の理論書とかだろうか。
本当は直接部屋を漁りたかったんだが…まあ仕方あるまい」
「プライバシーは大事ですからね」
「家を出てその辺荒らしまくってる子供なのに、まだ大事にしてるんだねぇ」
「悪者が産まれそうな家じゃないですよね」
「やはり動機は兄への嫉妬とかだろうか。目的もここで分かればいいんだが」
少し経って、母親が戻ってきた。
「これがカミュの読んでいた本です。
まだまだ部屋にあるんですが、よく読んでいたのはこれだったような」
「うーん、何の変哲もない本だな」
「なーんもわかりません」
「私も工学はちょっと……」
ソフトカバー、ハードカバー、などなど。
しっかりとした製本がされているし、タイトルにも怪しい所は無い。
書店にいくらでも売っていそうな雰囲気だ。
「私も内容がわかるとは言わないが、どう見ても一般に販売されている物だな…
お母さん、カミュ君が今何をしているか知っていますか?」
「カルカから少しは聞きましたが……正直、悪い子には思えません」
「ですが状況として1番怪しいのはカミュ君なんですよ」
正直な所、持っていた本などでわかるとは思えない。
普通に考えてやましいものは隠しておくものだ。
ヴァンは家探しのための説得にかかってみる。
「私もあまり突っ込んだことは言えないんですが…」
「長くなりそうですね」
「だねぇ。お煎餅無くなっちゃった」
「……あっそうだ。犬に家探しさせるのはどうでしょう」
「おお〜。そう言えばいたね、わんこ。今も付いてきてるの?」
「なんか透明になって付いてきてますよ。今朝も顔をぺろぺろされました」
「かわい〜」
「ウォルプタさんってどうやって命令してましたっけ?」
「覚えてないなぁ、適当に言ってみたら?」
「ここで犬を出したら面倒そうなのでちょっと離れますね」
「うん」
おもむろに渗手は席を立つ。
「トイレ借りていいですか」
「廊下の突き当たりの左にありますよ」
「ありがとうございます」
「いっといれぇ〜」
廊下。周りに人の気配は無い。
夫の方の姿が確認できていないのが不安だが、おそらく周囲にはいないだろう。
「よーし……犬達、集合!」
「「「「「わん!!」」」」」
「うおっ元気…えーっと……
この家の2階に行って怪しい文書を取ってきてください」
「あやしいってどんなですか!」
「いい質問だねラブラドール君。……怪しいというのは……」
思いつかない。この犬にわかるような説明ってどうするんだ?
「こういうやつ」
いつの間にか付いてきていたウォルプタが、日記帳を犬達に見せる。
「こういう外側が柔らかくて、あとできれば古いやつ」
「やわらかくて、ふるい!わかりました!!」
「いくぞー!」
犬達はまた透明になり、二階へと向かっていく。
いささか不安だが、まあ鼻がいいし何とかなるだろう。
「ところでウォルプタさん、魔獣って透明化は基本なんですか?」
「どっちかっていうと使い魔に近いのかもねぇ」
迷走の結果引っ付いてきた犬達についに役割が生まれました。
やったね。




