なんか...すっげ~ファンタジーな家だ...
森の中をてくてくと歩く。
相変わらず森は何の変哲もない。
いったん冷静になると左腕が滅茶苦茶痛い。右腕を階段から落ちて折ったことがあるが、あれをもっとひどくした感じだ。あんまりにも痛いので、痛みを紛らわすように話しかけてみた。
「さっきはありがとうございます。その...お名前はなんて言うんですか?」
そういえばこのヒトの名前を知らない。
「私?私はウォルプタ。ウォルプタ・スアーウィ」
変わった名前だ。見るからに日本人ではないから納得はできるが。というか魔法使いのようだし、ここは地球ですらないんだろう。うん。きっと異世界に来たんだ。
「俺は烏三渗手って言います。」
異世界に来たんだろう。とは思ったのだが、いきなりそんなこと言っても多分納得してもらえない気はする。
「えっと、ここって、どこなんですか?道に迷ってしまって」
よし。それっぽい質問でそれとなく聞けた。
「うん。言うと思った。」
「え?」
「見たところ君、異世界ってやつから来たんだろう。珍しくはあるが、前例は少なくない。」
そんな山からイノシシみたいなノリで転生してくるの???
「何人も来てるんだ。たしか最初は200年くらい前だったかな?そりゃあ最初は大変だったろうけど、今じゃ歓迎されてるくらいさ。異世界から来た人たちのおかげで文明は大きく発展したからね。今じゃ、えー、リニアモーターカー?ってやつも走ってるし...」
ほぼ現代じゃないか。そんなに文明進んでるの?
木も土も、俺の知っているそれと変わらなく見える。あまりにも現代だ。もしかしてこれドッキリか?ここが異世界じゃなかったら普通に山岳救助隊を呼ぶところだが......いや待てよ、俺スマホ持ってないか?
俺はスマホを取り出した。
「おっ、それ新しい奴かい?ちょっと見せてくれ」
ウォルプタは俺からスマホをひょいと取り上げ、まじまじと興味深そうに眺めている。
「これは...なんだ、カメラ二個しか付いてないのか」
「二つで十分ですよ。それにそれ最新のやつですからね?」
「いくつだ?」
「15です」
「そんなに進んでるのか!?前聞いたときは12が一番新しかったのに...」
この人意外と世俗には疎いタイプなのだろうか。それとももっと過去の現代人だけがこの世界に来てるのか。だとしたらこの世界は現代と時間軸が違うかもしれない、ということは急げば来週の推しの二周年ライブに間に合うかもしれない。
とっとと帰ろう。
「そんなに人が来ているなら、ここから元の世界に帰れる方法もあるんですか?」
「ない。あと一応言っておくと君の携帯も繋がらないぞ。そのままだとSIMが対応してないからね」
嘘やん。みんなこの世界に骨を埋めるってこと?っていうかSIMの概念あるの?
「君のもといた世界、ここでは〔モトカ〕って呼ぶんだけどさ、そこに帰れたって人はいない。そもそもなんでこの世界に人とその人が身に着けてた物だけが来るのかっていうのも不明なんだ。だからまぁ、君も早くここに馴染むと良い。」
モトカって"元の世界"の略なのだろうか。いやそんなことより、帰れないの?ここから?ほんとに?マジ?
「俺早く帰らないといけないんです、本当に帰った例はないんですか?たくさんの人が来てるんですよね?」
「みんなそんな風に帰りたがってたけど、本当にそんな話はないよ。行方不明って人間はいるし、その人たちは帰ったのかもしれないけどね?」
「そう...ですか...」
つらい。帰らせてくれ。なんでこうなってしまったのだ。
「っと、着いたよ。ここが私の家さ。」
そこには、大きな木があった。
ねじれたような樹皮で、5階建てくらいの大きさの木に、いくつかの窓が覗いていて、てっぺんには童話のような家が乗っている。
「でかっ...これ一人で住んでるんですか?」
「うん。私は前から一人だよ。ここから町医者までは少し距離があるから私のに乗っていく」
自家用車...かな?多分そうなんだろう。こんな森の中を進めるのがあるなんてこの世界は進んでるなぁ
─────
「え?ロボ???」
目の前には3階建ての家くらいの人型機械。
灰色の機体に差し色で黄色が入っていて、所々(主にエッジの部分に)白いマーキングシールがある。シルエットはシンプルな騎士鎧って感じの...そう、フルメタルなアルケミストのアレだ。
一つ違うとすると、黄色いバンダナを巻いた魔女の帽子を被っている。そういえば左肩にも同じエンブレムが張ってある。トレードマークなのだろうか。
そうそうこういうのを被ってるんだ。
大きな木に入って最初に目に入るのがこれだ。普通もうちょっとファンタジーというか...内装も金属でできた格納庫って感じだ。思ってたのと違う。
「なんですかこれ、鎧?」
「いや、これはトライアーマーって言って...まぁ、あれだ。君の想像通りだと思う」
ガ〇ダムだと!?
「まぁ乗ってよ。乗り心地は悪くないからさ」
「いや乗るって、え?どこからですか?」
「そりゃあ背中だよ。あそこに階段があるだろ?その先がコックピット。」
想像通りなら前じゃないのかって気がする。
とりあえず言われた通り、背中側の階段から乗り込む。
中は戦闘機よりは広く、複数人でも乗れないことはない感じだ。ただ、座席が一つしかない。
「その辺に座っててくれ。大丈夫、細かい説明は省くけど吹っ飛んだりはしないさ」
掴まるものくらいないのかって感じだが本当に大丈夫なのだろうか。しかし仕方ないのでとりあえずその辺に座り込む。
ウォルプタが座席に座るとさっき昇った階段が跳ね橋のように持ち上がり、バックパックが降りてくる。ハッチが閉じると、にわかに周囲の液晶が起動する。コックピットの壁全体には周囲の景色が映し出され、まるで宙に浮いているような光景にも思える。
「じゃ、行こっか」
彼女は座席から延びるアームの先に付けられた画面を操作すると、格納庫のシャッターが開き外からの光が差し込む。振動でシャッターの上の方から土埃なんかが落ちてくるのが見えた。
ゆっくりと歩き出すと、不思議とコックピットは揺れていない。
「飛ぶよぉ?」
「へ?」
歩いていくのかと思いきや、この鎧は宙を飛んだ。ジャンプとかではなく、ふわりと空へ浮かび、空を滑る。
「飛んで...!?」
「トライアーマーはたいてい飛べるよ」
感動した。この世界はこんなにも進んでいるのか。
「すごい技術ですね!?ほかにどんなことできるんですか!?」
「ずいぶん興味津々だねぇ...例えば他に──ッ!?」
機体が急旋回する。とっさに座席を支える軸につかまったが右肩を軽くぶつけた。
「いっ、何が起こったんですか!?」
「詳しいことはわからない、けど...仲良くはできそうにない」
ウォルプタの目線の先には、明らかに敵という感じの機械がいた。四つの脚から中央に細いアームが伸びて、その先から生えた軸の上には皿みたいな頭が乗っている。一辺にひとつついた目のうち一つがこちらを向き、眼光の代わりに蒸気が立ち上っている。
「そこに掴まってて...振り切るから、気を付けて!」
「お願いします!」
トライアーマーが唸り、空を駆ける。