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戌衣犬居ぬ狗奴忌む

「降りて大丈夫と思う?」

<<当機は気密処理がされていません。少なくとも大気は問題ないでしょう>>

「いや、この人たちが敵っぽいか聞いたんだけど…」

<<当機のデータとは一致しません。新種と考えられるため慎重な対応を推奨します>>

「新種かぁ」

<<外部スピーカーを用いての対話もしくは武力による>>

「スピーカーで!!」

<<承知しました。スピーカー起動、スクリーンに詳細設定を表示します>>


手元の端末には、マイクのアイコンと共にボイスチェンジャー、ノイズキャンセラーなどのオプションが表示される。


「(さっき神がもう一人とか言ってたよね)あー、みなさん、こんにちは…私は……神です」

「わー!」「しゃべった!」「やっぱりカミサマなんだ!」

「えー、我々に敵意はありませんので…もうひとりの神様の所に案内していただきたいです」

「カミサマって仲良(なかよ)しなんだ!」「テキィってなんだ?」

神様(かみさま)!わたし、この(むら)長老(ちょーろー)です!ついてきてくださいね!!」

「うむ、たのみます」


全身ふわふわ、頭ふわふわな獣人達。多分頭身が低いから対象年齢も低いのだろう。しかし家は建てられるというのだから、本気出したら違うのかもしれない。特にこの長老と名乗った獣人は牙を連ねた首飾りをしているし、どことなくおしゃれに気を遣っているし、顔が狆(犬種)っぽい。


「こちらです!!」

「わあ」

<<適合率75%。我々の乗ってきた列車と同一のものです>>


周りの砂とこの列車はやはり落ちてきて、こちらはそのまま墜落、ひしゃげたのだろう。

原型は留めているが貨物らしきものがいくつか散っているし、車両間の連結も取れかけている。


「開きそう?」

<<可能です>>

「ではそのように」


歪んだ扉を握り、そのまま引っ剥がした。

「パワーすぎませんか」

長老は後ろから興味深そうに眺めている。


「ウォルプタさ〜ん?」

「へ……?」

「朝ですよ」

「し、渗手君!?ちょっと見ない間に大きくなったね!?」

「これトライアーマーですよ」

「あっ、そうなの!?寂しかったよ3日もここに居てぇ!」

「3日も!?」


やはりというか、違う世界に行くときは時間がズレるのだろう。おそらく二人共同タイミングで飛ばされたのに誤差が生じている。


「水とか大丈夫でしたか?」

「この貨物車、いっぱいご飯入ってたから!」

「良かったです」

神様(かみさま)の中に神様(かみさま)がいるんですね!」

「この列車は別に…まぁいいか」

「れっしゃって何ですか?」

「カクカクシ≒カジカ!!」

「ほええええ〜〜〜」


なんとウォルプタは本作初めての詠唱を行った!

この魔術は"叡智の河鹿"を呼び出し特殊な音波を通じて対象の脳内にこれまでのあらすじを刷り込む呪文である!!なんて便利なんだ!!しかし獣人の脳にはいささか情報量が多かったらしい!!


「ほえ…ほえ…」

いぬ は こんらんしている!

「今のって魔術ですか?」

「そうだよ、初めてだったかな?」

(たび)のお(かた)!!私達(わたしたち)(むら)を守ってください!!!」

「わ、吸収が早い」

「話が急すぎるんですが」

「この(まえ)手紙(てがみ)が来たんです!!つぎの(よる)、この(むら)のご(はん)をとりにくるって!!!」

「ただのお茶会じゃないのかな」

(わる)いオオカミで有名(ゆうめい)なんです!!」

「君も犬でしょうが(じゃあしょうがないね〜)」

「まぁ…いいんじゃないかなあ?手伝ってあげても。暇だし」

<<現時点ではこれ以外に可能なことはないと判断します>>

「……それもそうか。じゃあ仕方ないか」

「やった〜〜〜!!!」

「元気がいいねぇ」


元気な犬にニコニコのウォルプタ。みんな元気な犬は好きだろう。


その日の夜。

村長の家。

渗手達はのんきにご飯を食べていた。


「(アーマーは外に停めてあるけど大丈夫かな...まぁこの犬たち足短いし動かせないか)

神様(かみさま)ってみんな中身(なかみ)があるんですね〜」

「え?あぁうん、それでいいや。っていうかご飯食べてていいのかな」

「まぁそんな大したことにはならないさ。わざわざ予告状を出すような相手だし」

「そうですけどねぇ…え?これがご飯ですか?」


目の前にお出しされたのは木の皿いっぱいの深緑飯。内容としては昆布・神社にあるような苔・海ブドウっぽいなにか。


美味(おい)しいですよ!神様(かみさま)もぜひ!いっぱい()べてください!!」

「緑過ぎませんか」

「美味しいかもしゃもしゃ…おっ、ほんとに苔美味しい」

美味(おい)しいですよかりかり(さま)

「昆布の擬音かりかりなの…?」

「このぶどうみたいなのも柔らかくて良いね」

「そこはプチプチではふ……米だこれ。わかめご飯だ。なんで?はふはふ」

「美味しいから良いじゃないかりかり。ん、この昆布はクラッカーみたいでいいね」

「ウォルプタさん順応早すぎませんか?美味しいですけども」


呑気に緑の食卓を楽しんでいると、窓の隙間から潰れたようなマズルが突っ込まれた。


「においがします!!()()()()()()!!」

「マジで来るんだ」


渗手達が外に出ると、なぜかオオカミとやらの姿はない。


「居なくないですか」

「あっちです!!」


ペキニーズ(鼻が潰れてるいぬ)の指差す方向、まだ1kmくらい遠くに、人狼のような者が居た。


「風上だねぇ」

「なんで犬に風上から仕掛けてるんですか」

「わーっはっはっは!!わーっはっはっは!!!」

「うわ対象年齢の低い笑い声」


児童書のような笑い声と共に、ずいぶんのんびりと、オオカミがやってきた。

見上げるくらい(2mほど)の体高は、蒼白色の体毛で、褪せ緑のボロボロズボン、両腰には太刀を下げ、がらがらとした怖い声。


「食い物をよこしな!!」

()()()()()()にあげるご(はん)はありません!!」


体毛の割にずいぶん不毛な言い争いが起こっている横で、渗手はペキニーズに聞いてみた。


「ぶっちゃけご飯ってどのくらいあるの」

「たべきれないくらい!!」

「そっかー」

「あっ!!村長(そんちょう)!!なんか来ました!!!」

「おお渗手君、なんかでかいのが飛んできたぞ」

「わお、CERO:Cぐらいの造形」


空からやってきたのはコウモリだ。翼からは触腕を、足の底からはさらに足が生え六本一対の爪が生えている。顔の皮はめくれ上がって、深海(うみ)色の体液が纏わりついている。


「わ、わ、わ!たいへんだ!」

「てめえ!じゃまするならお(まえ)からたおしてやるぜ!」

「え?え?あれ、()らないよ?」

「もしかしてこれ、オオカミと共闘するところまでテンプレなんでしょうか」

「そんな気がしてきたねぇ」

「”オレは・ほんき・だぜ!!”」


狼のかけ声と共に、魔力で編まれたもう一対の腕が脇腹から出現する。

上側の二本で右腰の、下側の二本で左腰の刀を握って居合の構えを鏡合わせにしたような姿勢を取る。


「(びっくりするくらい意味の無い構えだ......腕増えるならもうちょっとなんかあったんじゃないのかな)」

「おお、今の感じ...腕が増える固有魔術かな?」

「固有魔術?そういうのもあるんですね」

「オ、オオカミさん!にげましょう!!」

「犬っころはだまってな!こいつはオレのエモノだぜ──っ!?」


威勢良く踏み込んだ狼だが、跳んだ瞬間には蝙蝠の爪に掴まっていた。

下段の爪が身体にめりこみ、上段の爪が突き刺さる。

傷口からはさらさらと血が流れ出た。


「ガ、アァッ!?」

「オオカミさん!?」

「え、これもテンプレ?」

「仮にそうだったら悪趣味すぎますね、助けますよ。アーマーに乗ってくるのでウォルプタさんは避難誘導をお願いします!」

「え?あ、うん、わかった...どうやったらいいんだろ」


村長の家の傍、膝をついた状態で待機しているアーマーに飛び込む。


「ハッチ開けて!あの蝙蝠をはたき落とすよ!」

<<スタンバイモード解除 バッテリー残量低下、省電力モードで稼働します>>

「えっ、バッテリー!?あとどのくらい持つの!?」

<<通常では1時間、最大稼働では1分程度です>>

「カスカスじゃないか!?クソッ、1分で何とかするよ!」


渗手は走り出す。結構な高さにいる蝙蝠といえど、この機体のスラスターを使用すれば問題なく到達できる高度だ。

側面から飛び出し、蝙蝠の脚の付け根を掴んで自重で地面へ引きずり落とす。


「捕まってるやつが怪我しないようにしてね!」

<<承知しました>>

「オアーーーッ!?」


そこで悲鳴を上げているオオカミと違い、地面に叩きつけられたコウモリは声一つ上げない。

左翼でアーマーの顔部分を覆い、触腕を両脇に通して機体を持ち上げて逆の翼で打つ。


「殴っ、羽で!?」

<<問題ありません>>


空いている手で右翼を掴み、そのままぶちぶちと千切る。

さらに首へ掴みかかり、全身を捩じり上げる。


「先にオオカミを!」


渗手の入力から手首を捻り、コウモリの足首を折り取ってオオカミごと投げ捨てる。


「ノワァァァァァ!!?」

「勢い良すぎたかも」

<<死なないでしょう>>

「じゃあこのまま、殴って仕留める!......あれ?」


唐突に、液晶の照明が落ちる。腕を振りかぶったまま、機体は機能を停止した。


<<バッテリー切れです。機体からの脱出は緊急レバーを使用して下さい>>

「ちょっ、今!?もうちょっとだけなんとかならない!?」


返事はない。蛍光塗料の塗られたレバーだけが暗闇でぼんやりと光る。


神様(かみさま)(うご)かなくなっちいましたよ...?」

「あれ、そういえば渗手君ってどうやってあれ動かしてるんだろ......もしかして充電式...?」


一瞬の静止状態の後、先にコウモリが動き出した。暗い魔力が傷口から滲み出して、ゆっくりと失われた脚と翼が再生成されていく。


「げ、再生するタイプか!?ちょっと村長さん、なんとかならないの!?」

「そ、そんなこと()われても(こま)りますよぅ」

「オオカミは...ちょっと動けなさそうだし...やっぱり村長何とかして!」


喋っている間にもコウモリの体は復元される。この村の犬達はどうにも戦力にならないし、ウォルプタのアーマーは素手で戦える調整ではない。ありそうな解決策として脳裏に閃いたのは


「村長!()()!固有魔術を使って!」

「はい!え、なんですかそれ!?」


この村におけるいつもの流れ。推測にはなるが、恐らくオオカミとの共闘、そして見返りとしての食料の提供までが台本通り。だがオオカミ単騎での戦闘力は大したことがないように見える。もう一つの考察材料はウォルプタの持つ犬に対する偏見、上下関係に従う従順な種族という思い付き。つまり結論は。


「多分こういうときいつも使ってる力があるんじゃないの!?元気が出るとか、何か呼び出すとか!」

「えっ!?えっと!?」

「再生するタイプは大体時間掛かるし治してる最中無防備だから!()()()()()!なんとかしなさい!」

「わ、わかりました!えっと、いつもは!”おいしいごはんが!まってますよ!!みんなでいっしょに!!たべましょう!!!”」

「(すごい変わった詠唱...だけど、この魔力量は......!!)」

村全体を包み込むほどの大きな魔力の広がり、内面積約4000㎡(大きめの校庭くらい)の領域内の効果は───

全然キリの良いところまで書けてませんが前の更新から二日経ってるので一旦挙げます。一旦。

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