二重の殻の落花生
「これは...なんだろう?」
とっさに飛び込んだコックピットの中、ごっちゃりとした機器の巣窟は、ウォルプタの機体とは全く違う。
視界は数枚のモニター、訳の分からない計器が並び、手元の位置に来る端末には何かしら書いてある。
"GAIN:87%" "HATCH:OPEN" ”COM:OFFLINE” ”M.ARM:OFFLINE” "COMMAND..."
「なんだよこれ、意味わからん」
そう言いつつも思わず渗手は口角を上げていた。
奇妙な計器類、今触っていいのかわからないスイッチの数々。
空想の中で憧れた、ロマンの具現のようなそれ。
まずはコマンド。きっとこういうものだ。
「START」
端末に接続された物理キーボードは、古めかしいラップトップのそれのようにカタカタと大きな音を立てる。
それに反応して液晶が輝度を上げる。
ハッチが閉じ、暗い機体に火が灯る。
<<操縦アシストシステム、スキャン開始>>
「!?」
液晶が正面を映した瞬間、無機質な声が機内に響く。
<<ようこそ。...緊急状況と判定、ハイアシストモードを推奨します>>
「え、あ、じゃあそれで」
<<Roger、システムブートアップ、ドライバーをインストール中. . .>>
「今から!?」
未確認、初見の標的が動かないことを認識すると、四脚はゆっくりと前足を振り上げる。
貨物車と同じように、裂いてしまえば同じこと。
どこも変わらない、軋むような腕の音。
「急いでくださいよ!?」
<<......>>
爪の落ちる刹那、機体の左肩から弾け飛ぶ。
「んぬあっ───!?」
爆発的な燃料燃焼、焦げ付くほどの魔力の奔流は、爪どころか四脚そのものからも大きく距離を離す。
肩に装着されたバーニアノズルから、圧倒的な出力での回避行動が誘発された。
「急に動いたら危ないじゃないですか!?」
<<ハイアシストモードの解除をお勧めします>>
「っわかったよ、俺は動かせないもんな!」
四脚が爪の射程まで猛追する。それよりも迅く、渗手の背後のスラスターを着火する。
相対速度およそ150km/h、圧倒的な運動量でもフレームはまるで動じない。
「膝を!」
<<了解>>
やけくそに操作しつつも、渗手はAIに指示を出す。
反応などできない速さの右膝を目元に叩き込む。勢いのまま前方へ吹き飛びながら、左手を右手で覆って───
「ハンマーーッ!!」
膝と両手で圧し潰す!
最早四脚は鉄板と同義である。
一方そのころ。
「アレン!とどめを!」
「ロード...ロック!退避してください!!」
手にした抱えるような大きさの筒から、蒼く光る榴弾が飛び出す。
蒼い爆風と空色の煤に包まれ、二脚の自動機械は機能を停めた。
「いやー、やばかったっすね」
「呑気だなサーカリス、一番危なかったのお前だぞ?」
「生きてるから万事OKっすよ」
呑気な男、アリヒ・カリッヒ・サーカリスは親指を立てた。
少し爬虫類の気があるのか、やや人間離れした蛇のような瞳孔の男だ。
アレンマリンという名の女性が手当てをする横で、隊長と呼ばれた白髪長髪、白の軍服を着た少女がヴァンに話しかける。
「さて、旅の騎士君!救援に感謝するぞ!」
「騎士として当然のことをしたまでさ。まぁ冒険者なんだがね」
「いいのだいいのだ、騎士の方がかっこいいからな!貴殿にはこれを譲与しよう!」
「おお、感謝しよう!この...商品券!」
少女の取り出した一枚の紙には、"クリセティダ全域お買物券"と記されている。
「あとあそこのメカにも感謝せねばな!知り合いか?」
「多分乗ってるのは知り合いだな、烏三と言うんだが」
<<マニュアルモード起動、チュートリアルを開始します>>
「えーっと?こう?」
画面に表示された指示を参照し、渗手の操作で一歩ずつ歩む。
「意外と簡単ですね?」
<<当機は誰にでも扱えるようにというコンセプトで設計されています>>
「おーい!烏三くーーーん!!」
「誰ですかあの人」
<<登録データ確認、識別名>>
渗手の生涯12歩目は、なぜか虚空へと踏み出した。
「へぁっ!?」
「渗手君!?」
機体は地面に向かって、前傾姿勢で落ちていく。
沈むでもめり込むでもなく、するりと、落ちる
一瞬暗くなったカメラからは、次の瞬間空が見えた。
「落ちてるーーー!?」
<<オートバランサーを起動、衝撃に注意してください>>
全身のアポジモーターで崩れた姿勢を立て直し、スラスターで急減速する。
ガリガリと地面を削りながらも、ほどほどの衝撃での着地に成功する。
「なんかまた知らない場所に来たんだけど...なにこの村」
<<高い柵に囲まれた村。原始的な集落と考えられます>>
着地の音に驚いたのか、毛の逆立った人々がワラワラと集まってくる。
彼らは皆人型ではあるが、毛深く、耳が大きく、いわゆる獣人のようだ。
「どうなってるのこれ」
<<データ不足です>>
「うん、そうだよなぁ。...まぁこういうこともあるか」
獣人達の騒ぐ声は、驚いてはいるが楽しげだ。
「まただ」「このま えのやつ?」「ぜんぜんちがう」「でもかちかち」
「「「きっとカミサマだ!」」」
大きめの勘違いに見えるが、それが彼らの文化だ。




