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その英雄、実は偽物です。  作者: うちよう
一章 偽物の始まり
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02 初めての自由

 意識が戻ると、なぜか小学生くらいの小さな身体になっていた。


 まさかのタイムリープ?

 そんなわけない、だって街並みや人の容姿もどこかおかしいからね。


 だからこそ、私は十分すぎるくらいに理解していた。

 ただ、現実離れしすぎた現実を信じられなかっただけなのだ。


 どうやら私は、書籍などで目にしていた「転生」とやらをしてしまったらしい。御伽話ではなかったんだ。


 いや、ひょっとしたら転生という言葉を用いるのは語弊かもしれない。

 今の容姿は、元いた世界の姿を小さくしただけの可愛らしい少女の姿。


 だとすれば、「転生」よりも「転移」の方が適当かも……。

 

 「まあ、正直どっちでもいいんだけど……」

 

 今は転生、転移うんぬんの話はどうでも良い。

 それもよりも目の前で重要な出来事が起こっていたのだから。


 「ルーナ、庭での昼寝は気持ちがいいものね~」


 庭園の大木にもたれかかった同い年くらいの少女が、目を閉じながら心地よさそうに言葉を口にする。


 艶やかなドレスを身に纏い、太陽に照らされた美しい金髪を靡かせた少女の名はアイラス・ヴェネッヅ。「リーデアシア王国」を統治するヴェネッヅ一族の長女である。


 アイラスに兄弟、姉妹はおらず、次期国王の座を約束された女王様だ。

 そんな高位一族のアイラスがどうして私の目の前で昼寝をしているのか。実は私の知らないところで色々な事が()()()()()()


 ()()()()()()という表現をするのは、ルーナという名の少女の記憶が私の記憶の中に反映されているからだ。

 いや、ルーナの記憶の中に私の記憶が反映されたという表現の方が正しいのかも。


 どちらにせよ、何が起こったのかさっぱり分からないことに変わりないけど……。


 そのルーナの記憶によると、少女は両親に捨てられた孤児であったが、少女の前を偶然通りがかったアイラスが「召使い」という名目で少女を保護したらしい。


 当然、アイラスの両親を含めた大半の人間が猛反対した。

 それもそうだ、出生所が不明の孤児を王家の召使いとして王宮に招き入れるなんて普通に考えてありえない話だ。


 だが、アイラスは両親たちの猛反対に屈しなかった。

 そして、アイラスは両親に向かって言い放ったのである。


 ——————許してくれないなら、二人とも大っ嫌いになるから!


 何とも子供らしい単純な切り札だろうか。


 だが、両親からしたら精神的に大ダメージに違いない。

 愛しい我が子にそんなこと言われたら悲しさで数日引き籠ってしまいたくなるだろう。


 そして、アイラスに嫌われることを恐れた両親は渋々了承し、ルーナは晴れて王宮の召使いになったという……。


 「でも、これから苦労しそう……」


 ルーナの記憶から垣間見えた一つの光景。

 どうやら、このルーナという少女は日頃から失敗を繰り返してきたようだ。


 アイラスが大事にしていた花瓶を割ってしまったり、王室のカーペットに汚水の入ったバケツをひっくり返したりと……失態を挙げるとキリがない。


 当然、粗相を犯せば他のメイドさんたちに叱られる。


 こうして少女は自己嫌悪に押し潰され、やがて自らの「死」を望むようになった——————。


 それこそがルーナが残した最期の記憶だったわけだが、どうして私の意識が彼女に融合されたのかが全く分からない。


 とりあえず、平凡な暮らしを送るためにもルーナの失態を取り戻さなければ!


 「ほら、ルーナもこっちにおいで! 気持ちいいよ~」

 「いいえ、私は大丈夫です。それより、何かすることはありますか?」

 「ふふ、相変わらずルーナは仕事熱心なのね。でも、今までの失敗を償うための行動なら気にしなくてもいいんだよ? 誰にだって失敗はあるんだから!」

 「アイラス様はお優しいですね。ですが、私はアイラス様の御役に立ちたいのです。なので、私に何なりとお申し付けください」

 「んー、そうね……」


 顎に手を添えながら深く悩み込むアイラス。それからしばらくした後に、「よし!」と口にして勢いよく立ち上がった。


 「決まったわ。ルーナのお仕事!」

 「はい、何なりとお申し付けください」


 そう言うと、アイラスは含み笑いを浮かべながらドレスの裾を摘まみ上げ、そして突然走り出した。


 「ア、アイラス様!? 一体どこへ行かれるのですか!」

 「ルーナのお仕事は私の遊び相手よ! ほら、私を捕まえてみて!」

 「でも私、走るのは……」


 そう言いかけて、私は言葉を詰まらせた。


 そう、この身体はもうあの時の病弱な身体とは違う。記憶に残されている限りでも、ルーナの身体には特に運動制限とかもない。


 つまり、どれだけ運動しても何も問題ないのである。


 一歩ずつ足取りを確かめながら徐々に足を速く動かしていき、やがてアイラスを捕まえるために庭園を駆け出した。


 生まれて初めて感じる心臓の鼓動。

 心臓病で味わう苦しみとは異なる心地よい苦しみ。


 今、私は——————「走っている」のである。


 素晴らしい、実に素晴らしい!


 その事実が、気分を強く高揚させた。


 「絶対に捕まえます!」

 「ふふ、こう見えて私は足が速いのですよ~!」

 「それでも捕まえます! 覚悟してください!」


 こうして、アイラスとの追いかけっこは数時間に渡って行われたのだった。


 ちなみに私は、この後遊んでいたことで他のメイドに叱られそうになったが、アイラスがお願いしたということで何とか叱られずに済んだ。


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