90/124
東公先生 聞き方を語る
ある街人、十数年の放浪より帰り来る。
その人の話聞かんとて旧友知人酒食持ちて多く集まる。
帰り来る人言う。
我北方に行きし時、万にも及ぶ騎馬の兵を見る。その兵一日にして千里を征て還ると。
また言う。
我南方に行きし時妙なる香りを放つ枯れ木を見る。その木を産する地の民、その枯れ木を売り皆大いに富めりと。
さらに言う。
我東方に行きし時大海を見る。山より大なる魚海中にありて、一旦暴れなば千人を一飲みにすと。
続けて言う。
我西方に行きし時、砂に覆われたる地を見る。大風吹けば人また家の別なく砂に没したちまち街滅ぶと。
話を聞きし人大いに驚き喜ぶ。
ある街人東公先生にその様を伝えて東公先生も話を聞くべしと勧める。
東公先生いわく。
東公もその話に大いに興をそそられる。
ただ東公は、その者の酒を喫せざる時に赴かんと。




