東公先生 卵を語る
ある日東公先生の家に卵届く。
東公先生送る者の名に覚え無きも、卵腐ること恐れ東公先生の命にて一を除きこれを食す。残る一はやがて腐りたり。
一月過ぎてある男訪れていわく。
我、この家の隣家に卵を贈りたるも届かずという。
この家の者卵の行方知らざるやと。
東公先生の家人答えていわく。
一月前に何某より卵届くことありたりと。
訪れし男いわく。
その何某とはまさに我なり。卵誤りによりこの家に届く。我に卵返すべしと。
東公先生の家人答えていわく。卵既に我ら食せるが故に返せずと。
訪れし男忽ち怒りていわく。
かの卵南方の貴き鳥の卵ゆえ値万金なり。卵返せずと言うならその代わりに一万銭を我に払うべしと。
家の中のてそれを聞きたる東公先生密かに裏より家を出て隣家を訪ね、何某なる男を知るかと隣家の者全てに問うも、皆知らずという。
東公先生それを聞きて、隣家の主に届きし卵を東公に譲られよと言う。
隣家の者これに応ず。
ついで東公先生隣家の主を連れて家に戻り訪れし男に問いていわく。
我この家の主人なり。
汝その卵を隣家に贈りたると言うかと。
訪れし男いわく。
是なりと。
東公先生いわく。
その卵、隣家の者より東公が譲り受けて食す。故に代を払う理無しと。
また隣家の主もこれを肯んじ(がえんじ)たり。
訪れし男さらにいい募らんとするに東公先生これを制していわく。
その卵、一つ腐りてあり。
汝腐れる卵を贈りたるものか。
我役人にそう申し立てんと。
訪れ男すぐさま逃げ出したり。