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東公先生 質を語る
山中に崖ありて、落命する旅人絶えず。
ある人、崖を通らずして山を越える道を拓かんとす。されどその企ての労多きを知りてその道を作らんとする者に加わらんとする者無し。
二十数年を経てようやく新道成る。道拓く者、新道を通る者より労の代とて銭をとる。
銭とること知りたる地元の者、命を質にとると言いて誹る。
これを聞きて東公先生いわく。
道を拓くに加わらざる者は命を失うより労のかかるを避けんとした者なり。
かようなる労よりなお軽き命の者の命を質に取りてもその命は重き労の質にはならざるはずなり。まことに理に合わざる誹りなりと。