70/124
東公先生 騒音を語る
街に急ぎ邸を作らんとする人ありて、昼夜にわたり職人を働かす。
木を打つ音、削る音、また落とす音の昼夜問わず絶え間なく響きついに街人怒る。
而して街人邸を建てる者を訪れ、邸建てるを止めよと求めたり。
これに対して邸を建てる人いわく。
汝らも街中に家を建てたり。
その家は木を打ち、木を削り、また物を落として建てたるものなり。
我の邸もそうして建てるものにて、成るまでに立てる音の数は汝らと同じなり。
寧ろ(むしろ)、我は急がせたるが故に我が音を立てる長さは汝らが建てたる時に立てた音の半分の長さなり。
故に汝らが我を責めるに道理無しと。
街人、一旦引き退がりて東公先生を訪れ知恵を求む。
東公先生いわく。
汝ら邸の主にかく言うべし。
すなわち、汝が我らの家と較べて論ずるならば、汝の邸が我らの家と同大になる時までに立てる音の数こそ、我らの家を建てたる時に我らが立てた音と同じ数となる。
故に汝の理正しければ、汝の邸の我らの家と同じ大きさと成る時以後、汝の邸音を立てて建てるを許さずと。
邸の音に困りおりし街の役人、これを聞き、邸の工事をこの時以後に続けることを禁じたり。