東公先生 過剰を語る
街に旅の商人現れて品を広げる。
都にて富貴の者の好む品という。
いずれも良き品ともいう。
街人こぞりて集い、品を手に取り争う。
東公先生、帝に召されて都におりたるが、帰り来たりて街人の様をみる。
街人東公先生に気付きて、商人の言うこと真なるかを問いたり。
東公先生いわく。
この品確かに、都にて富貴の者の好む品なり。
また良き品なりと。
街人それを聞きこぞりて商人のもとに走り、争いて購わんとす。
されど幾人か東公先生のもとに留まりてさらに問いていわく。
東公先生の言うこと真なれば、品を都の富貴の者に高価にて売るはずなり。
ゆえに商人あえて都よりここまで品を運び来たるはずなし。
何故街人の購える値にて、あえて都より運び来たるやと。
東公先生にやりと笑いていわく。
是なり。その品都にて富貴の者の好む品にて、良き品なり。
されど、富貴の者の高値にても買うと聞きて都の者皆その品作り、あるいは取り寄せて富貴の者に売らんとす。
かようにして都にその品溢れ、もはや富貴の者の買う数を大いに上回りたり。
この故に都にて剰りたる品を、そを知らぬ所に売りに出でる者多し。
やがて、同じ品を安価にて売る者来たらんと。