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東公先生 慢心を語る
東公先生、街の路にて手綱を離して騎乗する若者に気づく。
東公先生近寄りていわく。
良き馬なり。されど街中にては、不期の出来事起こり易し。
ゆえに手綱を放すこと勿れと。
若者いわく。
我この県随一の騎手なり。またこの馬郡随一の名馬なり。ゆえにいかなること起ころうとも馬暴れることも落馬することも無し。凡俗直ちに去れと。
東公先生何も言わず、若者の馬の通り過ぎるを待ちて、馬の尻を叩く。
直ちに馬走り出し、若者、木に当たりて落馬す。馬さらに驚きて何処にかへ走り去る。
若者剣を抜きて東公先生に迫る。
東公先生笑いていわく。
東公を斬る間に名馬遠くに逃げんとす。汝追わざるかと。
若者東公先生を睨みてのち馬を追いて街を去る。




