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東公先生 高楼を語る
東公先生、ある時街の者に求められ旅の話しを語りていわく。
されば、東公が高楼にのぼりたる時の話しせん。
その高楼より遥か遠方を望めば空蒼く野緑にして麗らかなり。
されど東公、さらに遠き故郷を思いてうら寂しく感じたり。
古人の詩想まことにこの思いを綴るかと慨嘆せしと。
ある街人問いていわく。
われら学なく古人の詩知らず。
我らが登楼せば、果たしてうら寂しと思うかと。
東公先生いわく。
真の詩想、各のうちにあり。
されば皆、旅に出て登楼しその感じたる所を詠むべし。
東公古人の詩想を識れるがゆえに己が詩想か古人の詩想かもやはわからず。
ゆえに皆の詩想こそ尊しと。




