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東公先生 入れ物を語る

ある時東公先生の知人を名乗る者、小箱を持ちて東公先生の家を訪ね来たる。

東公先生おらず。


尋ね来たる者家人にいわく。

我嘗て東公先生より我が家累代の宝とする玉を見たしと言われ、今日持参し来たり。この箱に入れたる故に預けて帰る。二日後にまた参じると。


家人断らんとするも尋ね来たる者足速く去る。

家人やむを得ずまた来るまで預からんとて箱を持ち上ぐる。直ちに箱の底破れ玉転がり落ち割れ破片飛び散る。


尋ね来たる人速やかに戻りきて家人責める。

東公先生ようやく戻りて家人より顛末聞く。

されど東公先生尋ね来たる人を憶えず、いつ玉の話しをせしかと問うても尋ね来たる人答えることなし。ただ玉の償いすべしとのみ言う。


東公先生いわく。

玉の償いなすには、玉の値を量らざるを得ず。されば、もとの玉の態を知らずして値を量ることなしえず。

されど玉落ちて割れし時に破片飛び散る。破片飛び散るは、汝が玉を入れし小箱の不備なり。

ゆえに、汝、この庭より破片の一片に至るまで集めもとの玉の態に戻して東公に見せよ。その玉の態に値する償いせんと。


尋ね来たる者、破片集めるも全てを集めること叶わぬがゆえに、欠け多し。

東公先生それを見ていわく。


それ、欠け傷多く玉としての態をなさず。ゆえに値は銭一枚。もし汝、不服なれば、街人にその玉を見せ、情を話し、値を聞けと。


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