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東公先生 霧を語る
早朝霧出る。
一面白に満ちて、東公先生の家また霧に沈む。
東公先生興乗りて霧中の散歩を始めんとす。
家人これを止めていわく。
霧にて足元すら見えず。川に落つるは必至なりと。
東公先生抗いていわく。
奇景楽しむれば川に落ちるとてなんぞ憚ることあらんと。
家人いわく。
東公先生の汚れし衣洗うは我なりと。
東公先生いわく。
川にて衣洗うことあり。ゆえに川に落ちたとても洗う要なし。
家人呆れてもはや止めず。
東公先生、霧中の散歩を存分に楽しみて帰らんとするに、道を誤りて田に落つ。
東公先生衣の泥に覆われる。東公先生家人の言葉を案じ自ら衣まといたるまま川に入りて泥落ちるまで泳ぐ。
濡れしまま家に帰りたる東公先生を見て家人いわく。
我の言いしごとく先生川に落ちたりと。
東公先生、これに答えていわく。
東公川に落ちておらず。川には自ら入ると。