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東公先生 箱を語る
街に酒を飲み興が昂じて箱に入り込みて眠りたる男あり。
男目覚めた後箱から出んとせんも出られず。
首曲げ背曲げ手足畳て入りたる故に息苦しく甚だ弱る。
男を見つけたる家人騒ぎ悲しむ。
東公先生その家の前を通りかかりて家人の騒ぐに気付きて様子を見ていわく。
汝ら何故、その箱壊して男を助け出すことせぬかと。
家人急ぎ箱を壊して男助ける。
家人皆何故箱を壊すことを一人として言わざるかを論ず。
ある家人いわく。
我、誰も箱壊さぬを見て、壊せぬ箱と解して言わずと。
またある家人いわく。
男の弱りたるをみて、息させ、水を与うることを先にすと。
さらにまた家人いわく。
男、箱を壊さずして入りたるがゆえに、皆、箱を壊さずして助けんとせると思いしがゆえにと。
東公先生いわく。
急の時こそ思い込むこと危うしと。




