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東公先生 淵を語る
ある所に龍の住まうと伝わる淵有り。
東公先生若きときその話を聞き淵を訪れる。
森深くにある日の差さざる淵また深くして底見えず。
東公先生傍らの石とりて淵に投げ入れる。
龍見に来たる周囲の人驚き慌てて東公先生を止める。
東公先生いわく。
何故東公を止めるぞ。東公山河を越えてここを訪れるは龍を見るためなり。淵を見るためにあらずと。
周りの者皆怒りていわく。
もし龍に当たれば大事なり。逆鱗に触れなば皆殺さると。
東公先生答えていわく。
淵を見よ。森の大木枯れて淵に落つ。されど龍暴れて木々を薙ぎ倒したる痕無し。
東公の小石あたりても龍暴れることなからんと。
それを聞きて幾人か石を投げ入れる。
龍あらわれず。東公先生帰る。
十数年経て再びその淵に龍住まうとの噂あり。
東公先生、その淵の周囲に森いまだあるかを聞き、あると知りてもはや訪れず。




