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東公先生 帯を語る
東公先生昔に入手した帯を気に入りて常に用う。
その帯やがて破れるもなお、東公先生これを用いたり。
東公先生の家人、新たな帯を着けるべしと東公先生に言う。
東公先生いわく。
東公この帯を気に入りたり。王侯の前に出でる時につけるべき帯は既にあり。
この帯日々着けるものゆえ、破れたりといえども意に介す要なしと。
家人いわく。
その帯を先生着け、我らが新しき帯を着ければ、人々、家人は東公先生を蔑みたると囃すは必至なり。これは先生にも家人にも悪しきこと故に先生は良き帯を着けるべしと。
東公先生いわく。
ならば止む無し。新しき帯を着けるのならば汝らもよしとするかと。
家人いわく。
よしとすると。
東公先生古き帯を帯屋に預け、同じものを作るように頼む。
東公先生届けられたる新しき帯を着けるも、古き帯は捨てず。