34/124
東公先生 芋を語る
芋を売る者あり。
客を集めんとて大声にていわく。
我が芋四つにて値銭二枚なり。されど四つ買いし者にはもう一つを進呈すと。
ある人策を案じていわく。
我四つ買うと。
芋売り芋を五つ渡す。
買いし人銭二枚渡してふと案ずる顔していわく。
我が考え変わりたり。今夜食するは芋でなく貝にすと。芋は返すと。
芋売り銭二枚返す。されど買いし人芋四つを返すのみ。芋売り芋を返すよう求む。
これに答えて買いし人いわく。
汝の芋四つにして銭二枚なり。我芋を四つ返したり。故に足らざるところ無しと。
芋売り困りて通りかかりたる東公先生に助けを求めたり。
東公先生買いし人にいわく。
汝の言にも理あり。
されどこれを聞く人、汝に物売れば巧言して品を取り上げらると思わざる無し。また汝と話さば詐言にて騙さるると恐れざるもの無し。
すなわち汝芋一つを得て万人の信を失いたり。
もはや汝この街にて暮らす術なしと。
また見物の者にいわく。
この芋売り僅か芋の一つによりかような信ならざる者を露にす。皆この芋売りの功を讃えてこの者の芋買うべしと。