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東公先生 右足を語る
東公先生ある時盗人の警吏に捕わるところに居合わせる。
盗人、警吏に向いていわく。
我代払わんとせるも右足駆け始める。それゆえ左足も胴も両腕も頭も引きずられて店を去たるのみ。
故に我を捕らえること許されず。右足のみをとらえよと。
東公先生これを聞きていわく。
この者の言うも道理なりと。
盗人己が言こそ道理なりと大喝し、警吏困る。
東公先生続けていわく。
東公、ここに至る前に薪を割るための斧を求めたり。間もなく店の主東公のもとに届けにくるが故に、その斧をもって右足を断ち連れて行くべしと。
警吏意を得たりとて笑う。
盗人震えていわく。
我の先に言いたるは嘘なり。右足を断つことなかれと。
東公先生いわく。
ならば右足を断つ理無し。
されど警吏に嘘を言い張りて困らせるは悪なり。
嘘言せし口は頭につく。故に、斧もって頭を断ちて頭のみ連れ行くべしと。
盗人大いに泣き命を乞う。
東公先生斧を求めたると言うは嘘なりき。




