東公先生 羽を語る
東公先生路上にて羽をめぐりて争う人に遭う。
一人いわく。
その羽、我が飼う鳥が落とせし羽なり。故にそれ我が羽なりと。
もう一人いわく。
この羽路上に落ちてあり。汝の鳥より抜け落ちたるに限らずと。故に我が物ぞと。
見ればその羽美しき模様なりてこの辺りにて見ぬ鳥の羽と見ゆ。
二人東公先生に気づきて仲裁を請う。
東公先生二人に向いていわく。
汝らこの東公の裁きに従うやと。
二人共に頷く。
東公先生さればとて羽を拾いし人に尋ぬ。
汝何故この羽を汝のものと言うやと。
羽を拾いし人答えていわく。
我が拾いしが故にぞと。
東公先生重ねて問う。
されば東公が冠を道に落として汝拾えば冠汝のものとなるかと。
拾いし人答えていわく。
否と。
東公先生いわく。
されば路上のもの拾いて己がものとなる所以はその拾いしものの無主なるが故ぞ。
されば汝、この羽を己がものと欲するならば、この羽の無主なる証を東公のもとに持ち来るべしと。
次に東公先生鳥飼う人に向いていわく。
野の鳥も羽を落とす。鳥ならばたとえこのあたりに見ぬ鳥とて、空の四方に繋がりたれば汝の飼う鳥と同じ鳥の野にいる鳥もあらん。
されば汝、この羽の野の鳥の落とすのにあらざる証を東公のもとに持ち来るべしと。
東公先生さらに二人に向いていわく。
いずれかの証を東公の元に持ち来るまで東公この羽を預かると。
東公先生その羽を持ち帰りて永く栞として使う