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東公先生 講を語る その1
ある時街に大館建つ。
装飾華美にて漏れ聴こえる音曲天楽が如し。
街の人館の住人を噂していう。
大夫なるべし、いや王侯なるべし、富貴なるは間違いなしと。
ある日門前に燦々たる衣を纏し人立ちて大声にて呼ばわる。
我この館の主なり。
今日この街に移り住みたるが故に街人悉く(ことごとく)と親しくまじわらんと欲す。
我明日大いなる宴を催す。皆人あい語りて来れと。
街人大いに噂して宴に参ず。その数千人とも数える。
まさに酒池肉林なり。
宴半ばにして主立ちていわく。
快なり快なり。我かくも親しくなれる朋友をして我と同じく富貴とせん。近くまた宴を催さん。富貴を望む者また来れ一族知人皆連れ来れと。
ある街人東公先生の元を訪れ、次の宴に誘う。
東公先生いわく。
東公は行かずと。
誘いたる人その訳を問う。
東公先生いわく。
街に来て僅か二日の者、街人全てを富貴とせんとはいかにもに怪し。汝も行くべからずと。
誘いし人、東公先生を連れ出すを諦めて帰るも、次の宴には参ず。