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東公先生 団扇を語る
季、秋となり東公先生団扇を家中の何処にか置き忘れる。
東公先生探さんとするに、家人、来夏までに見つかると言う。
東公先生いわく。
東公団扇を家中にて置き忘れたること確かなれば、いずれ見つかること明らかなり。
されど、今探しおかねば誰ぞ踏み抜くかもしれず。
また、来夏見つかりし時には鼠の小便のかかりたるかもしれず。
汝ら踏み抜き、鼠の小便のかかりたる団扇にて涼をとらんと欲するかと。
家人これに答えていわく。
否。その団扇は捨て新たなる団扇を求めん。されど置き忘れし東公先生が探すは止めずと。
東公先生これに何も言わず探し出したり。
これを聞き及びしこの団扇作りし職人、後に路上にて東公先生に遭いし時に黙礼したるという。




