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東公先生 秋を語る
初秋に東公先生いわく。
東公秋を好む。
山に桃柿栗梨あり。田に実り有り。海に鮭鯖鰺鰹あり。皆美味と。
ある人問いていわく。
春夏もまた美味有り。東公先生何をもって秋を好むというかと。
東公先生これに答えていわく。
春となれば春の美味あるがゆえに春を好む。
夏となれば夏の美味あるがゆえに夏を好むと。
おのおの美味あり。これをただ楽しまば人みなこれを好まんと。
また東公先生いわく。
もし、人ありて嫌う季節のあらば、その人年の四分の一を楽しめず。
また生の四分の一を楽しめず。
美味食するに楽しめざれば美味の美味たるいわれなし。
ゆえに時のまま美味を楽しみ時のまま季節を好むと。
ある人あえて問う。
ならば東公先生いかなる果実を最も好むかと。
東公先生大いに頷きていわく。
桃なりと。