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東公先生 瓜を語る
東公先生ある時客人にいわく。
我甘き瓜を得たり。共に喰わんと。
客人尋ねていわく。
東公先生瓜の目利きとなるかと。
東公先生答う。
否と。
客人重ねて尋ねていわく。
東公先生瓜の上下を知らざるに、いかにしてこの瓜の甘きを知るかと。
東公先生いわく。
東公この瓜を村に行きて瓜を作る農夫より買う。
東公その農夫に問う。この村にて最も甘き瓜を作るは誰かと。
その農夫答う。我なり。我誇りを持て瓜を作ること永し。我が畑の瓜皆甘き瓜となりきと。
東公瓜の上下はわからずといえど、誇りを持ちて働く者の顔を見分くること可なり。ゆえにこの瓜は甘き瓜なりと。
客人さらに問う。
瓜の甘きは熟すがゆえなり。末に甘き瓜とならんとする瓜といえど未熟ならば苦かるべし。もし瓜の未熟にて苦くばいかんと。
東公先生いわく。
そは瓜の未熟の苦味にあらず。我が未熟の苦味なりと。