東公先生 家出を語る
ある小さき児、東公先生の高名を聞きて東公先生の家を訪ね来たりて教えを請う。
児いわく。
我東公先生のもとにて学ばんと心を決め、故郷を出でたり。
何卒聞き入れられたしと。
東公先生児に問いていわく。
汝の家は何を家業とするかと。
児答えていわく。
農家なりと。
東公先生また問いていわく。
汝の父母、汝に家業を為せと言わざるかと。
児答えていわく。
言いたりと。されど我勉学に励むことこそ我が道と定め故郷を出でたりと。
東公先生さらに問いていわく。
何故父母の家業を為せと言うかを汝考えて明日東公に伝えよ。
それまで入門許さずと。
児東公先生の門前にて一昼夜過ごす。
東公先生朝その子を呼びて問いていわく。
汝、父母の家業を為せと言うを如何に考えたるやと。
児答えていわく。
我が家を出るならば、家業を手伝う者なく父母困りたる故なりと。
東公先生いわく。
物事には多くの理あり。
汝の父母の家業を為せと言うは、汝の言うとおり、父母が困ることもあらん。
されど、汝が家業を継がば、汝飢えること無しとも考えたるやもしれず。
汝、一つの事に一つの理のみを見いだすことなかれと。
児大いに感じて、一度父母の元へ戻れとの東公先生の言葉に従う。