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東公先生 目撃者を語る
街にて若き男、ある男より銭を盗みたりとて捕まる。
その男、我盗みはしておらずと言いて抗う。
捕まりし男いわく。
我、一時この銭を借りたのみなり。まさに明日返さんとしておりたり。
故に盗みはしておらずと。
盗まれたという男いわく。
我この男に銭を貸した覚え無し。我この男のこと知らずと。
捕まりし男いわく。
我この男の妻より銭を借りたりと。
盗まれたという男いわく。
されば我妻を連れ来たると。
暫くして盗まれたという男、妻を連れて戻り、妻に問いていわく。
汝この男に銭を貸したることありしかと。
妻いわく。
否と。我この男に覚え無しと。
これを見し街の者ら、捕まりし男を罰すべしと言い交わす。
東公先生この様を見て、集まりし街の者に問いていわく。
この妻と捕まりし男、共に居るを見たことある者おらざるかと。
ある街人名乗り出ていわく。
この妻と捕まりし男、仲よさげにて共に居るところを見たことあると。
東公先生いわく。
汝ら、まだこの男を罰すべしを言うかと。