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東公先生 恨みを語る
街のある家の門に、この家の者悪人なりと書く者あり。
いわく、盗みをし人を殺すと。
またいわく、人を攫いて売ると。
その家の者、悪口を消せどもまた書かれる。
困りて東公先生に相談す。
東公先生家の者に尋ねていわく。
爾斯様なことを書かれる心当たりあるかと。
家の者いわく。
心当たり無しと。
東公先生さらに尋ねていわく。
爾の始めたる家業にて、爾以前より同じ業を営める人を窮地に追いやりその人苦にして死にたる事なきかと。
家の者いわく。
かつて然様なことありと。
東公先生重ねて尋ねていわく。
その死せる人の家族を貸金の代として売りたる事なきかと
家の者いわく。
かつて然様なことあり。されど其れいずれも天下の法に触れずと。
東公先生いわく。
しかり。されば爾の門に悪口を書きし人を天下の法にて裁けば良し。
何故東公に相談するやと。