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東公先生 使者を語る
ある時、都よりの使者来たりて、東公先生を招く者有りと言う。
東公先生、その招く者の名を知らざるが故、使者に如何なる者かを問う。
使者答えていわく。
都にて高位の役につかれたる者なり。登用されて日浅く、東公先生の高名聞きて国の有り様を談じたりとて、我を遣わすと。
東公先生いわく。
されば東公これより参らん。されど、東公その者に献じたき書あるゆえそれを購いて後参ると。
使者これを聞きて直ちに帰る。
されど東公先生都に行かず。
家人不思議に思いて東公先生にその理由を聞く。
これに答えて東公先生いわく。
良き使者ならば、東公のいつ都に行くか、また東公の購うという書の名を何かを問い既に主が有せざるかを確かめんとするはずなり。
されど、かの使者何も問わず。
すなわちその主東公へ良き使者を送らず。東公を然様に軽く見る者のために敢えて都まで赴く要無しと。