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東公先生 表裏を語る
東公先生若きとき南方の国を訪れしばし滞在す。
その地、今住まいする地よりはるかに暖かし。
ある街の人そのことを東公先生より聞きて、されば南の地に街を挙げて移住せんと称える。
東公先生移ることを称えるものに問いていわく。
汝何故南の地に移らんと欲するかと。
称える者いわく。
冬寒きが故に暖かき地に移ることを欲したりと。
東公先生いわく。
まさに冬はこの地より暖かし。
されど夏はこの地より暑し。それでも汝は南に移住せんと欲するかと。
称える者東公先生に問いていわく。
この地より涼しき地あるかと。
東公先生答えていわく。
有り。北方の地、この地より涼しと。
称える者これを聞きていわく。
されば冬は南に移住し、夏は北方に移住せんと。
東公先生いわく。
汝、北方に冬来たるとて南方を目指さばやがて北方の冬終わりたる頃に南方に着く。
南方に夏来るとて北方を目指さばやがて南方の夏終わりたる頃に北方に着く。
汝それでも移住するやと。
称える者黙して答えず。