10月5日 前編
6時に起きて、ミユさんと一緒に朝ご飯を作りました。メニューはトーストとサラダとハムエッグでした。
準備を終えて食卓に行くと、わたしのトーストがぺっちゃんこになっていました。奥様がこちらを見て笑っていました。
味はあまり変わらないので気にしません。
恭輔様と一緒に家を出ました。
「おヌメ、家帰ったらまたサッカーの特訓な!」
「お家帰ったらご飯作らないと」
「なに? 口答え?」
「⋯⋯やります」
学校に着くと、職員室に通されました。転校生は遅れて登場するものなのだそうで、先生と一緒に教室に行くことになりました。
職員室に入った時、一斉に騒がしくなって、先生たちがみんなこっちを見ました。
でも、すぐに静かになってしまいました。わたしの顔を見たからでしょうか。
担任の先生からは「何かされたらすぐに言いなさい」「つらかったら我慢せず休みなさい」と、わたしがいじめられる前提で説明を受けました。
先生と一緒に教室に向かいます。先生は歩きながら、わたしのお尻を触っていました。これって良くないことですよね?
教室に着くと、まず先生が先に入りました。
「今日は転校生が来てるぞ」
中から先生の元気な声が聞こえます。「今日は」というか、「今日から」なんですけどね。
「ということで、紹介をする。入ってきていいぞー」
合図があったので入ります。緊張します。
ガラガラガラ、と戸を開けます。みんなわたしに注目しています。
やはりみんな騒ぎ始めました。
しばらくしても大人しくなりません。先生たちとは違って、わたしの顔を見てもビックリしないのでしょうか。恭輔様はいません。
「すげー、オバケだ⋯⋯」
そんな言葉が聞こえてきました。ビックリはしているようですね。わたしはオバケだそうです。ヒュードロドロドロ。
「おヌメっていいます。よろしくお願いします」
ありすとおヌメと迷いましたが、今1番呼ばれているおヌメにしました。こっちのほうがしっくり来ますからね。鏡とか見ると特に。
「それって、ヌメヌメしてるから?」
「そうです」
「すげーっ!」
あれ? わりと好感触な気がします。この男の子は仲良くしてくれそうですね。
1時間目は国語でした。わたしはあまり頭が良くないので、よく分かりませんでした。入院のせいもあるかもしれません。
休み時間になると、わたしの机に男の子と女の子が3人ずつくらい集まってきました。ついにわたしにも春が来たんですかね。
「おヌメちゃん、その顔どうしたの?」
1人の女の子が言いました。
「これは火傷の後遺症なんです」
「ふーん」
興味ないのに聞いたんですかね。
「キモっ」
男の子が言いました。腹が立ちますね。
「うるさい」
わたしは言い返しました。
「は? 転校生のくせに言い返すのか?」
転校生のくせにとはどういう意味でしょう。
鐘が鳴ったので、みんな席に戻りました。
やっぱり授業は分かりません。わたしには難しすぎます。
やがて、給食の時間になりました。わたしが学校で1番好きな時間です。
給食当番が配膳してくれます。コッペパン、ミネストローネ、サラダ、牛乳。久しぶりの給食です。
いただきますの挨拶をしてパンに手を伸ばすと、さっきの男の子がわたしのパンを奪いました。そんなにお腹が減っているのでしょうか。
「お前のパンなんか、こうだ!」
そう言って男の子はパンを床に叩きつけました。そして、バレーシューズで踏みつけました。この地域ではこれが流行っているのでしょうか。
わたしはその子の机からパンを拝借し、ちぎってミネストローネにつけて食べました。
男の子は驚いたような顔をしたあと、ゆっくりとわたしに近づいて来ました。
次の瞬間、頭に鈍痛が走りました。ちょうど脳天を殴られたようです。痛いです。
「パン泥棒! 死んじまえ!」
そう言いながら男の子はわたしの頭を何度も殴ります。痛いです。
もちろん私もやり返します。
男の子のあそこを握りつぶします。全力で。
男の子はその場にうずくまりました。まだまだ終わりません。追撃をします。背中を何度も蹴ることで背中をガードさせ、あそこをノーガードにします。
そこでまたあそこに蹴りを入れます。
男の子は気絶しました。いい気味です。
教室内は騒然となり、すぐに先生が保健室に運んでいきました。わたしが頭を殴られていた時は気にせず給食を食べていたのに、不思議です。
男の子は救急車で病院に運ばれ、睾丸破裂と言われたそうです。
その間わたしは、クラスの子や先生からたくさんのお叱りを受けました。みんなわたしが悪いと言うのです。
わたしは帰ることになりました。後日男の子の両親が話しに来るそうです。
下駄箱に行くと、わたしの靴がなくなっていました。あの男の子の靴があったので、代わりにそれを履いて帰りました。